・・・白い鳩は基督教の信徒には意義があるかも知れないが、然らざるものの葬儀にこれを贈るのは何のためであろう。 元来わたくしの身には遵奉すべき宗旨がなかった。西洋人をして言わしめたら、無神論者とか、リーブル・パンサウールとか称するものであろう。・・・ 永井荷風 「西瓜」
・・・吾人の活力発展の内容が、自然にこの輪廓を描いた時、始めて自然主義に意義が生ずるのである。 一般の世間は自然主義を嫌っている。自然主義者はこれを永久の真理の如くにいいなして吾人生活の全面に渉って強いんとしつつある。自然主義者にして今少し手・・・ 夏目漱石 「イズムの功過」
・・・本質即存在、存在即本質の根柢という意義でなければならない。それには先ず本質と存在との関係が究明せられねばならない。 デカルトは「第五省察」において再び神の存在問題に触れている。そこでは認識論的である。明晰にして判明なるものが真である。神・・・ 西田幾多郎 「デカルト哲学について」
・・・ 私は二十世紀の文明は皆な無意義になるんじゃないかと思う。何と云っても今はまだレフレクションの影響を免がれていない。十九世紀で暴威を逞くした思索の奴隷になっていたんで、それを弥々脱却する機会に近づいているらしく見える。新理想とか何とか云・・・ 二葉亭四迷 「私は懐疑派だ」
・・・何もかもこの通りだ。意義もない、幸福もない、苦痛もない、慈愛もない、憎悪もない。死。阿房ものめが。好いわ。今この世の暇を取らせる事じゃから、たった一度本当の生活というものを貴ばねばならぬ事を、其方に教えて遣わそう。あっちに行って黙って立・・・ 著:ホーフマンスタールフーゴー・フォン 訳:森鴎外 「痴人と死と」
・・・後世の歌人といえども、誠を詠め、ありのままを写せ、と空論はすれどその作るところのかえっていつわりのたくみを脱するあたわざるは誠、ありのまま、の意義を誤解せるによる。西行のごときは幾多の新材料を容れたるところあるいはこの意義を解する者に似たれ・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・ 今日の心情は、その今日の性格において愛と死の問題をわが生の意義の上に悩み、感じ、知りたいと思っているのだと思う。この小説が後半まで書き進められたとき、作者の心魂に今日のその顔が迫ることはなかったのだろうか。愛と死の現実には、歴史が響き・・・ 宮本百合子 「「愛と死」」
・・・ 自然主義ということを、こっちでも言っていたが、あれはただつとめて自然に触接するように書くというだけの意義と見て好い。それは芸術というものがそうなくてはならないものである。 自然主義というものに、恐ろしい、悪い意義があるように言い触・・・ 森鴎外 「文芸の主義」
・・・何ぜなら、もしも然るがように新時代の意義が生活の感覚化にありとするならば、いかなるものと雖もそれらの人々のより高きを望む悟性に信頼し、より高遠な、より健康な生活への批判と創造とをそれらの人々に強いるべきが、新しき生活の創造へわれわれを展開さ・・・ 横光利一 「新感覚論」
・・・四 私は道徳をただ内面的の意義についてのみ見ようとしています。そうして他人の不道徳を罵る時にはその内面的の穢なさを指摘しようとします。 しかし自分の心はどれほど清らかになっているか。恥ずべき行為をしないと自信している私は・・・ 和辻哲郎 「ある思想家の手紙」
出典:青空文庫