・・・未組織の文学愛好者、特に婦人の間に多くの読者をもっている三上於菟吉、直木三十五などというブルジョア作家たちは手をつないで軍部の雇作家になった。 われわれ婦人大衆はブルジョア地主の利益を守るためにだけされる帝国主義侵略戦争には絶対反対だ。・・・ 宮本百合子 「国際無産婦人デーに際して」
・・・のがセザンヌ一派を熱愛して、たまにセザンヌの絵を求めてくる人があると、画室へ自分が案内して選ばせたのだそうですが、その画室には、一枚のキャンバスに小さいモティブの絵がいくつか別々に描かれていて、貧しい愛好家は一ルイ位出して林檎三つを買ってく・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 文学は文学者と文学愛好家だけのもちものではなくなってきている。私小説からの歴史的な脱出の戸口は、文学の外のこのような場所にある。したがって文学の創作方法は、科学の定理のように抽象されることは決してありえないし、それでこそ文学の文学であ・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・私共のような知識階級の貧者、同時に生活の愛好者には都会が住みよいことを発見した。そこで生れ育った人間には理屈以外都会に牽きつけられる本能があることをも感じる。―― それやこれや貸家物色中だが、今一番困ることは、家の寒いことだ。田舎らしく・・・ 宮本百合子 「是は現実的な感想」
・・・日本の近代文学にフランス文学がどのように影響しまた風土化されたかということ迄を考えないひとでも明治以来、日本の文学愛好者の心情に、フランスの作品は常に一つの親愛な存在として感じられている。そこに素朴な空想が加えられているにしても、フランスと・・・ 宮本百合子 「今日の作家と読者」
・・・映画製作が簡単な職場の自立製作によっては不可能であるという本質は、勤労階級の映画愛好と正比例して東宝問題の重要性を理解させた。文化における資本主義の害悪を具体的に感じたすべてのものは、日本の人民の自主的な文化を守り、それを発展させることが、・・・ 宮本百合子 「今日の日本の文化問題」
・・・それらの文学愛好者達は、発表の機会を考えてそこに集り、だが必ずしもその統率者に対して人間及作家としての尊敬を全幅的に捧げているとは限らない。或る場合には自分の本性と反撥するものをも感じつつ尚悲しき利害から毅然たる態度も示しかねる自分に自嘲を・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・ 紹介者諸氏の驥尾に附して当時シェストフと不安の文学という流行語を口にしない文学愛好者はないようであったが、遂にこの流行は不安に関する修辞学に終った。そして、文学の実際は他の一方で皮肉な容貌を呈して動いた。 明治文学の再評価の機運が・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ 文章を愛好する人はこれを見て、必ずや憤慨するであろう。口語体の文は文にあらずという人はしばらくおく。これを文として視ることをゆるす人でも、古言をその中に用いたのを見たら、希世の宝が粗暴な手によって毀たれたのを惜しんで、作者を陋とせずに・・・ 森鴎外 「空車」
・・・畑はこの時から浪花節の愛好者となり浪花節語りの保護者となった。 そこでこの懇親会の輪番幹事の一人たる畑が、秋水を請待して、同郷の青年を警醒しようとしたのだと云うことは、問うことを須いない。 暫くして畑の後輩で、やはり幹事に当っている・・・ 森鴎外 「余興」
出典:青空文庫