・・・と云う商売人になっただけでは足りない、人間として、凡人以上の感受性と洞察が要求される。頭がいる。強い心がいる。 種々な素人劇団が起るのは、「芝居道」以外の人間には時々我慢の出来ない玄人の臭味と浅薄さとを嫌うからである。併し、目指す方向は・・・ 宮本百合子 「印象」
・・・ 思うに、それは、D・H・ローレンスという炭礦夫の息子が、たまたま異常な感受性と表現の才能にめぐまれていて、性の解放を主張し、その解放者である男性を、青年貴族だの、上流資産家の二男などの中に見出さず、自分の生れ育った階級に近いところから・・・ 宮本百合子 「傷だらけの足」
・・・子供のための文学の仕事をする作家は、小さい民衆が自由奔放に造る言葉、表現に対して、ひろい感受性をもつと同時に、それらの言葉を芸術の素材とし、取捨し、高める必要がある。 営々たる人類の進歩のための努力の結果は、将来、婦人の生活により多くの・・・ 宮本百合子 「子供のために書く母たち」
・・・作家は、現実に向って飽くまで探求的であり、生のままの感受性をもち、自身の人間的心情に立ってひたむきでなければならないと思う。その意味では、最も大乗的な素直さが求められる。私たちが今日を生き、そしてその中に、人間としての自己の生涯を与えつくす・・・ 宮本百合子 「今日の文学と文学賞」
・・・善戦をつたえているが、現代の読者が、ああいう大ざっぱで昔風の芝居がかりな勇気というもののいいあらわしかたや、献身というものの表現を、不満なくうけとって、心持にそぐわない何ものをも感じていないとすれば、感受性の鋭さを誇る若い青年男女の心持ちも・・・ 宮本百合子 「祭日ならざる日々」
・・・映画は若い男と女との奔放な交渉を映し出して女学生時代の娘の感受性ばかり鋭い情感を刺戟する。学校は、今の社会の風潮が浮薄であるということだけを強調して、その社会的根源を究明しようとする力は持たず、表面的にそのような世相を反撥して地味な制服を着・・・ 宮本百合子 「昨今の話題を」
・・・それは日本の封建性の圧迫をつねに感じていて、そのために感受性が異常になっている日本のインテリゲンチャの間には、一九二八年以来、奇妙な自己撞着があるということである。その自己撞着は、いつも自我の解放、個人の運命の自由な展開ということについて熱・・・ 宮本百合子 「自我の足かせ」
・・・特に敬服に堪えないのは、先生のいかにも柔軟な、新鮮な感受性である。都会育ちの先生が、よくもこれほど細かに、濃淡の幽かな変化までも見のがさずに、山や野や田園の風物を捉えられたものだと思う。わたくしは農村に生まれて、この歌集に歌われているような・・・ 和辻哲郎 「歌集『涌井』を読む」
・・・ そこで問題は、その対象の生命にピタリと相応ずるような生命を自己の内に経験し得るかどうかに帰着して来る。 感受性が鋭く、内生が豊富で、象徴を解する強い直覚力を豊かに獲得しているものはさまざまな対象の生命の動きを自己の内に深く感じ得る・・・ 和辻哲郎 「「自然」を深めよ」
・・・その貴さは溌剌たる感受性の新鮮さの内にあります。その包容力の漠然たる広さの内にあります。またその弾性のこだわりのないしなやかさの内にあります。それは青春期の肉体のみずみずしさとちょうど相応ずるものです。そうして年とともに自然に失われて、特殊・・・ 和辻哲郎 「すべての芽を培え」
出典:青空文庫