・・・まるで、私が自身で、そんな憂き目に逢ったかのように、私は、ひとりで苦しんでおりました。あのころは、私自身も、ほんとに、少し、おかしかったのでございます。「姉さん、読んでごらんなさい。なんのことやら、あたしには、ちっともわからない。」・・・ 太宰治 「葉桜と魔笛」
・・・丙は時として荊棘の小道のかなたに広大な沃野を発見する見込みがあるが、そのかわり不幸にして底なしの泥沼に足を踏み込んだり、思わぬ陥穽にはまって憂き目を見ることもある。三種の型のどれがいけないと言うわけではない。それぞれの型の学者が、それぞれの・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・ともむきつけに云えないので、「どんな事があっても貴方が達者でいらっしゃらなければ…… 第一に憂き目を見るのはお君ですからね、唖でも『いざり』でも生きてさえ居れば親と云うものはたよりになるものです。 せいぜい体を大切になさって・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・でこうて半間の猟人は或る日ひょんなこってララ狐つかまえた――皮はごか――やれ煮て食おか廻りかねたる智恵助に憂き目を見せてござるうちこすい狐はうまうまとばかしおおせて猟人をあちら、こちらと、引き廻す・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
出典:青空文庫