・・・のバザーロフに対する読者の憤激は深刻なものがあった。ツルゲーネフは、様々に弁明したが、新しい合理的な社会組織を探求する献身的な六〇年代の青年男女の理想と実践とを、一面的な観念的な解釈によって歪め、妙に不自然なものとしてバザーロフの中に鋳かた・・・ 宮本百合子 「ツルゲーネフの生きかた」
・・・ 野獣の如き軍事的警察的テロルの虐殺制度に対し憤激したのはひとり革命的労働者、農民ばかりではなかった。ブルジョア作家、自由思想家などもその衝撃を披瀝し、三・四月の文芸時評はことごとく何かの形で、同志小林の受難にふれたのである。しかしなが・・・ 宮本百合子 「同志小林の業績の評価に寄せて」
・・・この頁では歓喜し、次の頁で憤激しつつ読むうちに疲れが出て、床にころげたまま寝込んでしまった。眼がさめて見ると、鬼のマトリョーナ婆が怒鳴っている。落ちていた大切な借り物の黄色い本でゴーリキイの肩をどやしつけ、飯の時は家じゅうが、主人迄も、読書・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・ レーニンが、大衆の不幸というものに対して妥協のない憤激を持ち、その不幸はとりさることが出来るものであり、且つ大衆自身の力によってこそ取り除かれるものであるという明白な確信の上に立っていることは、深くゴーリキイを感動せしめた。 しか・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの人及び芸術」
・・・勇造の父親が、息子に学問を許さなかった心持、生意気になると、憤激をさえもってそれを阻止した心持、そこには何があったのだろう。 この作家の少年時代の好学心の具体化は常に父親のそういう態度との挌闘をもって、苦学の実力でもって結果的に闘いとら・・・ 宮本百合子 「山本有三氏の境地」
・・・敵をののしることによって敵を憤激させれば、それだけ敵が強まることになって損である、という利害打算もあるいは含まれているのかもしれぬが、しかし根本にある考えは、尊敬し得ないようなものは敵とするに価しない、敵に取ったということは尊敬に価する証拠・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫