・・・「これは皆お前の戦利品だね。大事にしなくちゃ済まないよ。」 すると房子は夕明りの中に、もう一度あでやかに笑って見せた。「ですからあなたの戦利品もね。」 その時は彼も嬉しかった。しかし今は…… 陳は身ぶるいを一つすると、机・・・ 芥川竜之介 「影」
・・・そこには戦利品の大砲が二門、松や笹の中に並んでいる。ちょいと砲身に耳を当てて見たら、何だか息の通る音がした。大砲も欠伸をするかも知れない。彼は大砲の下に腰を下した。それから二本目の巻煙草へ火をつけた。もう車廻しの砂利の上には蜥蜴が一匹光って・・・ 芥川竜之介 「保吉の手帳から」
・・・人権に関する最初の戦利品というようなその髯をみて、ひろ子は微笑をおさえることが出来なかった。 髯の同志がきょうの世話役らしく、暫くすると階段の下から、「みんな、集って下さい」 また響きのいい声で呼んだ。牧子と子供とが、どうしよう・・・ 宮本百合子 「風知草」
出典:青空文庫