・・・この連作で作者は戦災によってすっかり面がわりした東京の下街のあすこここを回想的に描き出しながら、そこを背景として、一人の勤労する少女が働く若い女となり、やがて妻、母として階級にめざめて行ったみちゆきを描いた。「私の東京地図」と「女作者」「虚・・・ 宮本百合子 「婦人作家」
・・・七十万人近くを殺し八百三十余万人の戦災者を出し、未亡人と遺児たちを作った。 私たちの人間らしいやりかたには、今はまだ小さくとも、納得出来る力を、自分たちのものとして守り立てて大きくして行くところにある。赤坊は、すぐものの役に立たない。資・・・ 宮本百合子 「婦人の一票」
・・・ 戦時中婦人を駆りたてて戦力の一部としたすべての婦人団体は、最もその責任を明らかにしなければならない今、尨大な数に達する婦人の離職者、寡婦、戦災孤児などの不幸な生存の危機を救う、どんな誠意も実力も喪っております。新聞は、大都市における婦・・・ 宮本百合子 「婦人民主クラブ趣意書」
・・・ 戦災で本富士署が焼けおちて数日後、わたしはあそこを通りがかった。第一に心にうかんだのは留置人で、やけ死された人はいなかったろうかということであった。「やぶそば」のありなしや「のんき」のあるなしはともかく、本富士署のあの留置場空気だ・・・ 宮本百合子 「本郷の名物」
・・・なぜなら、C子さんのお手紙だけで判断すると、C子さんは、東京で戦災にあった実家の両親や弟の消息をしらべるのに、何とあっけなくあきらめているでしょう。引きあげて来て、家族が戦災にあっていたとき、その消息をたずねる人の努力と熱心は実に何とも云え・・・ 宮本百合子 「三つのばあい・未亡人はどう生きたらいいか」
・・・夥しい戦死者がある。戦災を被った都会からの転出者との生活上の摩擦、昨今の供出の難かしい問題など、それは農村の封建的な土地との関係、家族の関係などを引くるめて、決して農村婦人の生活を、これまでよりも負担の軽い、楽しい明るいものとはしていないの・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫