・・・くされかたまったような足の十ならんだ指を見て居ると、この指と指とのはなれたすきから、昼はねて夜になって人間の弱身につけ込んで、その弱身をますます増長させて其の主人の体をはちの巣のようにさせる簾のような遊女の赤いメリンスの着物がちらつく。死に・・・ 宮本百合子 「ピッチの様に」
・・・京町は小倉の遊女町の裏通になっていて、絶えず三味線と太鼓が聞えていた。この家へもF君は度々話しに来た。 又年が改まった。私が小倉に来てから三年目である。八月の半頃に、F君は山口高等学校に聘せられて赴任した。 その又次の年の三月に、私・・・ 森鴎外 「二人の友」
・・・この伯母には子供が五人もいた。遊女街の中央でただ一軒伯母の家だけ製糸をしていたので、私は周囲にひしめき並んだ色街の子供たちとも、いつのまにか遊ぶようになったりした。 二番目の伯母は、私たちのいた同じ村の西方にあって、魚屋をしていた。この・・・ 横光利一 「洋灯」
出典:青空文庫