・・・今後私の生活がいかように変わろうとも、私は結局在来の支配階級者の所産であるに相違ないことは、黒人種がいくら石鹸で洗い立てられても、黒人種たるを失わないのと同様であるだろう。したがって私の仕事は第四階級者以外の人々に訴える仕事として始終するほ・・・ 有島武郎 「宣言一つ」
・・・結局彼は人間の精神的要求が完全し満足される環境を、物質価値の内容、配当、および使用の更正によって準備しうると固く信じていた人であって、精神的生活は唯物的変化の所産であるにすぎないから、価値的に見てあまり重きをおくべき性質のものではないと観じ・・・ 有島武郎 「想片」
・・・これらの階級はブルジョアジー以前に勢力をたくましゅうした過去の所産であって、それが来たるべき生活の上に復帰しようとは、誰しも考えぬところであろう。文芸の上に階級意識がそう顕著に働くものではないという理窟は、概念的には成り立つけれども、実際の・・・ 有島武郎 「広津氏に答う」
・・・しからざれば、自己享楽の所産なりと言うを憚らぬからです。「人生を語る」という言葉は詩的に、センチメンタルに聞えるかも知れないが、民衆の利福を祈念するために、より正しい生活を人間の正義感に訴えて、地上に実現せしめんとする目的は、一片の空想・・・ 小川未明 「自分を鞭打つ感激より」
・・・ つとめて書を読み、しかもそれが他人の生と労作からの所産であって、自分のそれは別になければならぬことを自覚し、他人の生にあずかり、その寄与をすなおに受けつつ、しかも自らの目をもって人生を眺め、事象を考察することのできるもの、これが理想的・・・ 倉田百三 「学生と読書」
・・・もともとあの役人の身の上も、全く私の病中の空想の所産で、実際の見聞で無いのは勿論であるが、次の短篇小説の主人公もまた、私の幻想の中の人物に過ぎない。 ……それは、全く幸福な、平和な家庭なんだ。主人公の名前を、かりに、津島修治、とでもして・・・ 太宰治 「家庭の幸福」
・・・ 他の人間精神の所産物と比較して広義の芸術的科学的ないし功利的の価値を考えてみたときに、特に漫画を低級なものと考えるべき必然な根拠を見出す事は困難である。劣悪な美術と優秀な漫画を比較してみた時には困難を感じさせられる。その感じはちょうど・・・ 寺田寅彦 「漫画と科学」
・・・同時代に生れて同様な趣味や目的をもって、同じ学校生活を果した後に、また同じような雰囲気の中に働いて来たものが多少生理的にも共通な点を具えていて、そしてある同じ時期に死病に襲われるという事は、全く偶然の所産としてしまうほどに偶然とも思われない・・・ 寺田寅彦 「厄年と etc.」
・・・学問も歴史的世界の所産である。カントの時代は、世界が科学から考えられた。今日は科学が世界から考えられなければならない。 最初から、内と外、主観と客観、内在と超越という如き対立を考え、外から内を考えるのも独断的であるが、内から外を考えるの・・・ 西田幾多郎 「デカルト哲学について」
・・・児童を型にはめ、卑屈にさせ、抑圧と搾取とを準備する現在の小学教育はドグマの所産であると奮激し「おれはもっと……して……ぞ!」と切歯する。 K市の年中行事として行われる「共同視察」参観者の列席の前で、佐田は児童との初歩的な階級性を帯びた質・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
出典:青空文庫