・・・人間の労力から生まれた資本はためこまれて、やがて人間を喰いはじめ、その精神的所産までを貪婪に食いつくそうとする。それに対して、ヨーロッパは、自身の流血をもって闘った。第二次世界戦争の結果は、こういう意味で、疑いなくこれからのヨーロッパ文化を・・・ 宮本百合子 「木の芽だち」
・・・その他の、日本民主文学の歴史的所産たる作品を生み出したのであった。 当時、一部の文化人と云われる人々は、小林多喜二の貴重な生命が失われたことについて、一語も日本の警察の野蛮さ、無恥さについて憤らず、却って共産党が、あたら小林の才能を挫折・・・ 宮本百合子 「今日の生命」
・・・文芸批評はそのころすべて主観に立つ印象批評であったから、在来の日本文学の世界の住人たちの感情にとって、プロレタリア文学理論とその所産とは、自らも住む文学の領域内での新発生としてありのままにうけとられず、文学の外から押しよせてきて、文学にわり・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・ 民族的悲運に陥って居る国民が、生理的に優越国民を凌ぎ得ない事は、彼等の悲しめる魂の所産でございます。絶えざる不満、圧迫の下に束縛されて、嘆き悲しみつつ軈ては其にも馴れて無感覚に成った不幸な魂が、如何うして輝く肉体の所有者に成れますでし・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・自己と外部との葛藤、相剋をとりあげるとなると、それは全く社会的背景から抽象された心理分析、フロイド風の或はドストイェフスキイ風の意識下のものの探求となり、作品に現れる人物が本質の窮極においては彼の内的所産であることは「狭き門」の頃とかわりな・・・ 宮本百合子 「ジイドとそのソヴェト旅行記」
・・・芸術は人間的血肉の所産でなければならないという普遍性は、彼を待つ迄もなく古き一般論の土台である。彼の「観念学」はその倚ってかかっている特定の全存在、宿命の具体的な相貌を解きほぐす点になると遺憾ながら全く無力で、「作家が己れの感情を自ら批評す・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・それだのに、何故討論は現在のわれわれが獲得した事実として存在する民主主義文学運動の所産を、全面的に先進的階級のために生かして使う機敏で闘争的なプランについての発言がなかったのでしょう。この面は、プロレタリア文学の遺産の継承に関する討論と等し・・・ 宮本百合子 「討論に即しての感想」
・・・だからこそ世界の良心的な科学者たちが、ジョリオ・キューリーをはじめとして自身の能力の所産である原子兵器使用禁止を、このようにも誠意と永続性とで要求している。 一月一日朝日新聞の第一面に「バンチ湯川両博士対談」がのった。「人類互に理解と尊・・・ 宮本百合子 「「人間関係方面の成果」」
・・・、その文学の運命の担いてとしての民衆生活と作家の内的世界との統一のことはいわれないで、これまでそれ等の作家・評論家たちが、一握りの知識人として庶民のくらしとは隔絶した日常のなかで語り書きして来た文学的所産の単なる読者として、その消費者、購買・・・ 宮本百合子 「平坦ならぬ道」
・・・しからば人間において感ぜられる一切の価値は、喜びも苦しみも悲しみも、すべて心の所産であって自然のものではない。この考えをもって「人類」を意味づける時、それは初めて明白な内容を得るのである。動物学的に類別せられた「人類」は自然物であって、価値・・・ 和辻哲郎 「『劉生画集及芸術観』について」
出典:青空文庫