・・・たといクロポトキンの所説が労働者の覚醒と第四階級の世界的勃興とにどれほどの力があったにせよ、クロポトキンが労働者そのものでない以上、彼は労働者を活き、労働者を考え、労働者を働くことはできなかったのだ。彼が第四階級に与えたと思われるものは第四・・・ 有島武郎 「宣言一つ」
・・・しかもその所説は、私の見る所が誤っていないなら、第一の種類に属する芸術家でも主張しそうなことを主張していられる。もし第一の種類に属する芸術家がそれを主張するようなことを仮想したら、あるいはそれは実感として私の頭に響くかもしれない。しかしなが・・・ 有島武郎 「広津氏に答う」
・・・ そこでこれらの数氏の所説に対する僕の感じを兄に報ずることになるのだが、それは兄にはたいして興味のある問題ではないかもしれない。僕自身もこんなことは一度言っておけばいいことで、こんなことが議論になって反覆応酬されては、すなわち単なる議論・・・ 有島武郎 「片信」
・・・しかし一種の趣味があって武蔵野に相違ないことは前に申したとおりである―― 八 自分は以上の所説にすこしの異存もない。ことに東京市の町外れを題目とせよとの注意はすこぶる同意であって、自分もかねて思いついていたことである・・・ 国木田独歩 「武蔵野」
・・・のみならず、かくまちまちな所説が各々真理を主張することが真理そのものの所在への懐疑に導くことはいつの時代でも同じことであった。あたかもソクラテスの年少時代のギリシアのような状態であった。実際それらの教団の中には理論のための理論をもてあそぶソ・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・それで、多くの人の実例について確かめない以上、以上の所説はなんら科学的の価値をもたない空想に過ぎないのであるが、しかし「映画の生理的効果」という一つのテーマを示唆する暗示ぐらいにはなるかもしれないのである。 もしも自分の以上の空想が多少・・・ 寺田寅彦 「映画と生理」
・・・仮りに如何に博学多識の学者を案内として名所見物をするとしても、その人の所説にはそれぞれ何か確かな根拠はあるかもしれないが、それらの根拠を一つ一つ批判的に厳密に調べてみても一点の疑いのないという場合はむしろ稀であろう。歴史上の遺蹟や古美術品の・・・ 寺田寅彦 「科学上における権威の価値と弊害」
・・・ 以上の所説は、一見はなはだしく詭弁をろうしたもののように見えるかもしれないが、もし、しばらく従来の先入観をおいて虚心に省察をめぐらすだけの閑暇を享有する読者であらば、この中におのずから多少の真の半面を含むことを承認されるであろうと信ず・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・その男の変った所説の一例を挙げると、自分が風邪を引いて熱を出したりしたとき「アンマリ御馳走を喰べ過ぎるんじゃあないですか」と云ってはにやにや笑うのであった。 御馳走を喰うと風邪を引くというのは一体どういう意味だか分からなかった。御馳走を・・・ 寺田寅彦 「変った話」
・・・ 西鶴の人についてもあまりに何事も知らな過ぎるから、この際の参考のためにと思って手近にあった徳富氏著『近世日本国民史、元禄時代』を見ていると、その中に近松と西鶴との比較に関する蘇峰氏の所説があって、その一説に「西鶴のその問題を取扱うや、・・・ 寺田寅彦 「西鶴と科学」
出典:青空文庫