・・・故日下部博士が昔ある学会で文明と地震との関係を論じたあの奇抜な所説を想い出させられた。高松という処の村はずれにある或る神社で、社前の鳥居の一本の石柱は他所のと同じく東の方へ倒れているのに他の一本は全く別の向きに倒れているので、どうも可笑しい・・・ 寺田寅彦 「静岡地震被害見学記」
・・・また場合により実験の結果が半ばあるいは部分的に予期に合すれば、実験者たる学者はその適合せる部分だけを抽出して自己の所説を確かむれども、かくのごとき抽象的分析に慣らされざる世俗は了解に苦しむ事もあるべし。 かくのごとき困難は天然現象の場合・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・それで、ただ一概に断片的な通俗科学はいかなる場合でも排斥すべきものであるかのような感を読者にいだかせるような所説に対しては、少なくも若干の付加修正を必要とするであろうと思われた。この機会についでながら付記しておく次第である。 ・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・と言って、自分の提出した答案の所説を述べ、「これは、なかなかうまい説明であると思う。が」と言ってちらりと自分のほうを見ながら、にこにこして「しかし、惜しい事には……」と言ってその似而非説明の大きなごまかしの穴を指摘しておいて、さて、丁寧に先・・・ 寺田寅彦 「田丸先生の追憶」
・・・この事はやはり前記の鉱産に関する所説と本質的に連関をもっているのである。すなわち、日本の地殻構造が細かいモザイックから成っており、他の世界の種々の部分を狭い面積内に圧縮したミニアチュアとでもいったような形態になっているためであろうと思われる・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・ この所説の当否は別問題として、この人の言う意味での正しい詩の典型となるべきものが日本の和歌や俳句であろう。雄弁な饒舌は散文に任して真に詩らしい詩を求めたいという、そういう精神に適合するものがまさにこうした短詩形であろう。この意味でまた・・・ 寺田寅彦 「俳句の精神」
・・・この現象については先年わが国のある学術雑誌で気象学上から論じた人があって、その所説によると旋風の中では気圧がはなはだしく低下するために皮膚が裂けるのであろうと説明してあったように記憶するが、この説は物理学者には少しふに落ちない。たと・・・ 寺田寅彦 「化け物の進化」
・・・そして少しばかり言語に関する学者の所説などを読んでみても、なかなか簡単にこの疑問の答解は得られそうもないように思われた。 英語やドイツ語とだんだんに教わるうちに、しばしば日本語とよく似た音をもった同義の語に出会う事がある。これは偶然であ・・・ 寺田寅彦 「比較言語学における統計的研究法の可能性について」
・・・特にルクレチウスによって後世に伝えられたエピキュリアン派の所説中には、そういうものが数え切れないほどにあるようである。おそらくこれらの所説も、全部がロイキッポスやデモクリトスなどが創成したものではなくて、もっともっと古い昔からおぼろげな形で・・・ 寺田寅彦 「量的と質的と統計的と」
・・・これらの所説を現在学者の所説と比較してみてもおそらく根本的にはいくらも違わないのではないかと思われる。たとえば火の発明の記事は現に私の机上にある科学者の火に関する著書の内容そのままであり、言語の起源に関する考えは、近代言語学者中の最も非常識・・・ 寺田寅彦 「ルクレチウスと科学」
出典:青空文庫