・・・キッドの手套。キャデラック。又は半ズボンと共に郊外の散歩。あるいは忽然として、自分のわきに細い眉毛を描いて立つ洋装の女を思い出すかもしれない。自分は、今ステッキを見てそのような種類のことは思えない。何ともいえぬ肉体的憎悪をもってそれを見る。・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・同時に作家たちも多くのことを学んだのは確かだが……率直に云うと、作家たちはまだどうも白手套をはめている。――つまり、まだお客で幾分儀式ばってる。そういう批評であった。 ロカフは益々真面目な活動の分野をひろげ、各地方に支部を組織した(ロカ・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・ 傍の客室に案内された。手套をとり乍ら室内を見廻し、私はひとりでに一種の微笑が湧くのを感じた。長崎とは、まあ何と古風な開化の町! フレンチ・ドアを背にして置かれた長椅子は、鄙びた紅天鵝絨張り、よく涙香訳何々奇談などと云った小説の插画にあ・・・ 宮本百合子 「長崎の一瞥」
・・・囚人たちが使ってぼろになったチョッキ、足袋、作業用手套を糸と針とで修繕する仕事であった。朝の食事が終ると、夕飯が配られる迄、その間に僅かの休みが与えられるだけで、やかましい課程がきめられていた。日曜大祭日は、その労役が免除された。そういう日・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・ しかもブルジョア社会文化は、いかに表面を種々様々の花束・手套・行儀作法でとりかざろうとも、本質において男尊女卑であり、婦人の性はその特殊性をも十分晴れやかにのばし得る形態において同位ではない。それ故進歩的思索を可能とする婦人は、先ず家・・・ 宮本百合子 「婦人作家は何故道徳家か? そして何故男の美が描けぬか?」
・・・自分の手にはレース手套をはめて、通りがかる野暮なスカートの女の節高い指を軽蔑して眺めるたちの婦人ではなかった。そのことこそ、彼女の芸術上のいのちとなった。あんなに時代おくれの貴族生活の雰囲気の中で矛盾だらけの苦しみの中から生きようとしてもが・・・ 宮本百合子 「まえがき(『真実に生きた女性たち』)」
出典:青空文庫