-
・・・たかだか日に一度や二度の残飯の投与にあずからんがために、友を売り、妻を離別し、おのれの身ひとつ、家の軒下に横たえ、忠義顔して、かつての友に吠え、兄弟、父母をも、けろりと忘却し、ただひたすらに飼主の顔色を伺い、阿諛追従てんとして恥じず、ぶたれ・・・
太宰治
「畜犬談」
-
・・・彼らの内には、生を高めようとする熱欲も、高まった生の沸騰も、力の横溢もなんにもなく、ただ創作しようとする欲望と熱心だけがある、内部の充溢を投与しようとするのでなく、ただ投与という行為だけに執着しているのである。従って彼らの表現欲は内生が沈滞・・・
和辻哲郎
「創作の心理について」