・・・ない所か、自分の隣にいる、ある柔道の選手の如きは、読本の下へ武侠世界をひろげて、さっきから押川春浪の冒険小説を読んでいる。 それがかれこれ二三十分も続いたであろう。その中に毛利先生は、急に椅子から身を起すと、丁度今教えているロングフェロ・・・ 芥川竜之介 「毛利先生」
・・・巌本君が心配して、押川方義氏を連れて、一度公園の家を訪ねて、宗教事業にでも携わったらどうか、という話をしたという事を聞いたが、後で私が訪ねて行くと、「巌本君達が来て、宗教の話をして呉れたが、どうしても僕には信じるという心が起らないからね」と・・・ 島崎藤村 「北村透谷の短き一生」
・・・その頃わたくしは押川春浪井上唖々の二亡友と、外神田の妓を拉して一夜紫明館に飲んだことを覚えている。四五輛の人力車を連ねて大きな玄関口へ乗付け宿の女中に出迎えられた時の光景は当世書生気質中の叙事と多く異る所がなかったであろう。根津の社前より不・・・ 永井荷風 「上野」
・・・会員の中押川春浪黒田湖山井上唖々梅沢墨水等の諸氏は既にこの世には居ない。拙著「あめりか物語」の著作権が何人の手に専有せられているかは、今日に至るまで未だ曾て法律上には確定せられていないものと見ねばならない。博文館が強いて拙著の著作権専有を主・・・ 永井荷風 「申訳」
・・・家庭購買で活躍していられる押川夫人など、こういう点にどんな感想を持っていられるだろう。 私たちの今日の生活が過渡期の混乱におかれていることは、こういう小さい例にもまざまざと感じられると思う。 商人は商人気質の鋭さ万能に、家を守る女性・・・ 宮本百合子 「主婦意識の転換」
出典:青空文庫