・・・けれども、私共、平の人間、真心を以て人間の生活、真の人生と云うものを掴握しようとする者が、互に生きているこの地上の人として、要求され、渇望される協力に、どうしてすげない拒絶が与えられるだろう。自分に窮乏が迫らない為、無邪気にも余り無知識であ・・・ 宮本百合子 「アワァビット」
・・・そして日本が民主的な社会となるためには、日本の男も女も、はっきりめいめいの意志と判断とにたってイエスかノーかを表現し、拒絶したいことは、あいまいに笑ってすぎないではっきり拒絶するようにならなければいけないと忠告された。 きょうの生活を考・・・ 宮本百合子 「偽りのない文化を」
・・・ 顧炎武はかつて牌を室に懸けて応酬文字を拒絶した。この「なかじきり」もまた顧家懸牌の類である。大正六年九月 森鴎外 「なかじきり」
・・・多分君は私が許諾するか、拒絶するかと思っていただろう。それに私の答は許諾でもなければ、拒絶でもなかったから、君のためには意外であったかと思われる。とにかく君は、格別難有がる様子もなく、私に同意した。 私は使を遣って下役の人を呼んで、それ・・・ 森鴎外 「二人の友」
・・・ お豊さんの拒絶があまり簡明に発表せられたので、長倉のご新造は話のあとを継ぐ余地を見いだすことが出来なかった。しかしこれほどの用事を帯びて来て、それを二人の娘の母親に話さずにも帰られぬと思って、直談判をして失敗した顛末を、川添のご新・・・ 森鴎外 「安井夫人」
・・・しかし、ロシアは彼の懇望を拒絶した。そうして、第二に選ばれたものはこのハプスブルグの娘ルイザである。ルイザにとって、ロシアは良人の心を牽きつけた美しきアンナの住む国であった。だが、ナポレオンにとっては、ロシアは彼の愛するルイザの微笑を見んが・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
・・・と云うのは、秋三の祖父が、血統の不浄な貧しい勘次の父の請いを拒絶した所、勘次の母は自ら応じてその家へ走ったことから始まった。祖父の死後秋三の父は莫大な家産を蕩尽して出奔した。それに引き換え、勘次の父は村会を圧する程隆盛になって来た。そこで勘・・・ 横光利一 「南北」
・・・手で拒絶するような振をした。 己は自分の事を末流だと諦めてはいるが、それでも少し侮辱せられたような気がした。そこで会釈をして、その場を退いた。 夕食の時、己がおばさんに、あのエルリングのような男を、冬の七ヶ月間、こんな寂しい家に置く・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
・・・――しかし私は西洋文明を拒絶することによって真に日本的なものが現われるとは信じない。偉大な西洋文明を真髄まで吸収しつくした後に、初めて真に高貴な日本的がその内に現われるのではないだろうか。 この際このことを言うのはやや自己弁解に類する。・・・ 和辻哲郎 「「ゼエレン・キェルケゴオル」序」
・・・ 私は近ごろT氏がすべての訪客を拒絶するという記事にたびたび出逢う。私はあれほど親切で優しかったT氏がそのような残酷をあえてし得るのかと不思議に思っている。なぜなら、私はT氏を訪ねて行く若い人たちのまじめに道を求める心持ちに、今なおある・・・ 和辻哲郎 「転向」
出典:青空文庫