・・・ さらに、インフレーションにより、当然招来する物価の騰貴は、いよ/\彼等を死地に追いやるものとして、ありの群に、殺虫剤をかけると同じいものです。いままでも時代の不遇に泣く人々はあったが、しかし、今日彼等の群は、ありの群よりも多数者である・・・ 小川未明 「近頃感じたこと」
・・・彼とその一派が羊頭をかかげて狗肉を売らない日を招来しようとすれば「ボァリー夫人」にはじまる十九世紀の自然主義からロシアの批判的なリアリズムを通じてレマルクが「西部戦線異状なし」から「凱旋門」に至ったヨーロッパ――フランス、ドイツの恐ろしい三・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・ゴーリキイをしてしかく人類的な光彩ある活動と、才能の満開とを可能ならしめた社会の文化的条件を想い、翻ってその招来のためにゴーリキイが作家的出発の当初から共に労して来た歴史の推進力との相互的関係に思い潜めて、それぞれの国における歴史と文化との・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ 今日文学が作者の念願しているだけ十分にリアリスティックであり得ないという実際の事情は普遍的だから、誰しも身にひき添えて肯けるのであるけれども、それを理由にいきなりロマンティックな文学時代の招来へ飛躍されるのは、文学の問題としてみると、・・・ 宮本百合子 「作家と時代意識」
・・・ 芸への愛好を伴う現実批判の衰退は随筆の流行をも招来した。内田百間の「百鬼園随筆」を筆頭として諸家の随筆が売り出されたが、これは寧ろ当時の文学の衰弱的徴候として後代は着目する性質のものなのである。 三 ・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・のぞましい社会の招来のために、その建設の方へ一歩一歩と前進の旅をつづけなければならない。そこに新しい世代の詩があり、歌があり、文学があり、また行進曲があるのだと思う。 文学は何か現実生活とはなれたもののように考えられている習慣があったけ・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・そして、重い封建の石をわたし達の肩からふりすて、日本の明るい民主的社会を招来させ、もう二度と戦争のない、生活の安定と向上との約束された未来を、わたし達のものとしましょう。婦人民主クラブはあらゆる層の婦人がうれしさも努力も向上心も互にわけ合っ・・・ 宮本百合子 「婦人民主クラブについて」
・・・ 従来文学が中央へばかり集ってしかもそこで類型化し衰弱しているように見える昨今、文学の地方分散の情勢が招来されつつあることは、朝鮮・満州などの文学的動勢に対する中央の文壇の関心を見ても、九州文学、関西文学などの活溌さを見ても、将来の文学・・・ 宮本百合子 「文学と地方性」
・・・とは、社会主義社会招来のために闘うプロレタリア・農民大衆の文化的要求と目的とによって、厳しくふるいわけられた。 ソヴェト同盟をのぞく世界じゅうのプロレタリア大衆は、めいめい本国、植民地の職場で、賃銀引下げ、労働強化に反対し、ストライキし・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・そして、息苦しい室内に集って真理を擁護しながら議論をわき立たせるこれら一団の人々が、よりよい人間の生活の招来のために献身していること、彼等の言葉の中には彼の無言の思いも響いていることを感じ「自由を約束された囚人のような狂喜で」これらの人々に・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
出典:青空文庫