・・・と、おとなしいお嫂さんも、さすがに我慢できなかったのでしょう、拝むようにして兄さんにたのんで、とにかくそれだけは撤回させてもらいましたが、兄さんのお写真なんかを眺めていたら、猿面冠者みたいな赤ちゃんが生れるに違いない。兄さんは、あんな妙ちき・・・ 太宰治 「雪の夜の話」
・・・労働者は喜んで何か口の中でもぐもぐ言いながらその若者を拝むようなまねをした。ちょっとした芝居であった。その車の入り口のいちばん端にいた浴衣がけの若者が、知らん顔をしてはいたが、片腕でしっかり壁板を突っぱって酔漢がころげ落ちないように垣を作っ・・・ 寺田寅彦 「軽井沢」
・・・それでも頂上に着いてしまうとそのとし老りがガラスの瓶を出してちいさなちいさなコップについでそれをそのぷんぷん怒っている若い人に持って行って笑って拝むまねをして出したんだよ。すると若い人もね、急に笑い出してしまってコップを押し戻していたよ。そ・・・ 宮沢賢治 「風野又三郎」
・・・それは白い鬚の老人で、倒れて燃えながら、骨立った両手を合せ、須利耶さまを拝むようにして、切なく叫びますのには、(須利耶さま、須利耶さま、おねがいでございます。どうか私の孫をお連 もちろん須利耶さまは、馳せ寄って申されました。(いいと・・・ 宮沢賢治 「雁の童子」
・・・鹿のめぐりはまただんだんゆるやかになって、たがいにせわしくうなずき合い、やがて一列に太陽に向いて、それを拝むようにしてまっすぐに立ったのでした。嘉十はもうほんとうに夢のようにそれに見とれていたのです。 一ばん右はじにたった鹿が細い声でう・・・ 宮沢賢治 「鹿踊りのはじまり」
・・・小十郎は思わず拝むようにした。 一月のある日のことだった。小十郎は朝うちを出るときいままで言ったことのないことを言った。「婆さま、おれも年老ったでばな、今朝まず生れで始めで水へ入るの嫌んたよな気するじゃ」 すると縁側の日なた・・・ 宮沢賢治 「なめとこ山の熊」
・・・この后は久しい間病気でいられたのに、厨子王の守本尊を借りて拝むと、すぐに拭うように本復せられた。 師実は厨子王に還俗させて、自分で冠を加えた。同時に正氏が謫所へ、赦免状を持たせて、安否を問いに使いをやった。しかしこの使いが往ったとき、正・・・ 森鴎外 「山椒大夫」
出典:青空文庫