・・・支度もなにもする暇もない慌しい挙式であった。そして、その翌日の夜には彼ははや汽車に乗っていた。再び戦地へ戻って行くためである。十八歳の花嫁はその日から彼に代って彼の老いた両親に仕えるのである。 × 私はこの話をきいて・・・ 織田作之助 「十八歳の花嫁」
・・・その料理屋には、神前挙式場も設備せられてある由で、とにかく、そのほうの交渉はいっさい小坂氏にお任せする事にした。また媒妁人は、大学で私たちに東洋美術史を教え、大隅君の就職の世話などもして下さった瀬川先生がよろしくはないか、という私の口ごもり・・・ 太宰治 「佳日」
・・・結納金は二十円、それも或る先輩からお借りしたものである。挙式の費用など、てんで、どこからも捻出の仕様が無かったのである。当時、私は甲府市に小さい家を借りて住んでいたのであるが、その結婚式の日に普段着のままで、東京のその先輩のお宅へ参上したの・・・ 太宰治 「帰去来」
出典:青空文庫