・・・ 掘割に沿って電車が走って行く。 再び公園だ。菩提樹のなかにロシアのイソップ・クルイロフの銅像がある。ひろい斜面に花や草で模様花壇がつくられていた。赤や緑の唐草模様だ。モスクワ劇場広場の大花壇のように星形でも、鎌と鎚とでもない。・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・ 公園の外を一条の掘割が流れている。橋の欄干にひじをかけて男が二人どこかでテームズ河に流れ入るその水の上を眺めている。鉄屑をのせた荷舟が一艘引船で掘割をさかのぼって行くところである。舟をひいているのは馬だ。一人の男がよごれた背広で馬の横・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
・・・十一 一週間の後、小さな藁小屋が掘割の傍に建てられた。そこは秋三の家に属している空地であった。 その日最早や安次は自由に歩くことも出来なくなっていた。彼は勘次の家の小屋から戸板に吊られて新しい小屋まで運ばれた。 勘次・・・ 横光利一 「南北」
出典:青空文庫