・・・ 十五、皮肉や揚足取りを云わぬ事。 十六、手紙原稿すべて字のわかり好き事。 十七、陸海軍の術語に明き事。少年時代軍人になる志望ありし由。 十八、正直なる事。嘘を云わぬと云う意味にあらず。稀に嘘を云うともその為反って正直な所が・・・ 芥川竜之介 「彼の長所十八」
・・・逆説的にいえば、彼等の評論こそエロチシズム評論ではないか――などという揚足取りを、まさか僕はしたくありませんが、大体に於て、公式的にものを考え、公式的な文章を書く人の言葉づかいは、科学的か医学的か政治的か何だか知りませんが、随分生硬でどぎつ・・・ 織田作之助 「猫と杓子について」
・・・』 僕はこう問い詰められてちょっと文句に困ったがすぐと『そんならなぜ先生は孟子を読みます』と揚げ足を取って見た。先生もこれには少し行き詰まったので僕は畳みかけて『つまり孟子の言った事はみな悪いというのではないでしょう、読んで益になること・・・ 国木田独歩 「初恋」
・・・ 以上は別にウェルズの揚げ足をとるつもりでもなんでもない、ただ現在の科学のかなり根本的な事実と牴触するような空想と、そうでない空想との区別だけははっきりつけておいたほうが便利であろうと思ったからしるしておくだけである。 これは全くよ・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・しかしそれはいわゆる「揚げ足取り」の態度であって、まじめな学者の態度とは受け取られない。「完全」でない事をもって学説の創設者を責めるのは、完全でない事をもって人間に生まれた事を人間に責めるに等しい。 人間を理解し人間を向上させるため・・・ 寺田寅彦 「相対性原理側面観」
・・・やがて祖父さんは、こういう揚足とりに対しては何かできっとこっぴどくゴーリキイに仕返しをするのであったが、暫くでも祖父さんをまごつかせたことで、ゴーリキイは「凱歌をあげた。」 これにくらべて祖母さんアクリーナの神は、何と親密で、人間のよう・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
出典:青空文庫