・・・そういう損失をなるべく少なくするには、やはりいろいろの人の選んだいろいろの案内記をひろく参照するといい。ただ困るのは、すでに在る案内記の内容をそのままにいいかげんに継ぎ合わせてこしらえたような案内記の多い事である。これに反して、むしろ間違い・・・ 寺田寅彦 「案内者」
・・・これだけ切ってしまってもおそらくこの映画価値は決して損失を受けないばかりかむしろいっそう渾然としたものになりはしないかという気がするのである。ゆがみて蓋のあわぬ半櫃 凡兆草庵にしばらくいては打ちやぶり 芭蕉・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・少なくもその日まで勉強したことはまるで何もしなかったよりはやはりそれだけの貢献にはなっており、その日から止めたことは結局その人自身の損失に過ぎないであろう。 学位授与恐怖病の流行によって最も損害を受けるものは、本当に独創的な研究によって・・・ 寺田寅彦 「学位について」
・・・その際もしも、その研究員が、更に進んでその欠点を除去し、その商品を完成するように研究の歩を進めるならば結構であるが、そうでなくて、その欠点を委細構わず天下に発表して、その結果その会社に多大な損失をかけ、事によるとその会社の存在を危うくするよ・・・ 寺田寅彦 「学問の自由」
・・・東京市民は、骨を折ってお互いに電車の乗降をわざわざ困難にし、従って乗降の時間をわざわざ延長させ、車の発着を不規則にし、各自の損失を増すことに全力を注いでいるように見える。もしこれと同じ要領でデパート火事の階段に臨むものとすれば階段は瞬時に生・・・ 寺田寅彦 「火事教育」
・・・ しかし風呂に限らず、われわれの日常生活でわれわれの科学的知識の欠乏のために色々な損失をし、色々な危険を冒していることは数え上げればその外にもずいぶん沢山にあるであろうと思われる。普通教育にも理科の課程がかなり豊富にあるようであるから、・・・ 寺田寅彦 「家庭の人へ」
昭和七年四月九日工学博士末広恭二君の死によって我国の学界は容易に補給し難い大きな損失を受けた。 末広君の家は旧宇和島藩の士族で、父の名は重恭、鉄腸と号し、明治初年の志士であり政客であり同時に文筆をもって世に知られた人で・・・ 寺田寅彦 「工学博士末広恭二君」
・・・山、北陸、山陽、山陰、南海、西海諸道ことごとく震動し、災害地帯はあるいは続きあるいは断えてはまた続いてこれらの諸道に分布し、至るところの沿岸には恐ろしい津波が押し寄せ、震水火による死者三千数百、家屋の損失数万をもって数えられた。これとよく似・・・ 寺田寅彦 「時事雑感」
・・・そうしてやはり人命財産の著しい損失が起らないとは限らない。 さて、個人が頼りにならないとすれば、政府の法令によって永久的の対策を設けることは出来ないものかと考えてみる。ところが、国は永続しても政府の役人は百年の後には必ず入れ代わっている・・・ 寺田寅彦 「津浪と人間」
・・・十年たてば二十億円の金と二万人の命の損失である。関東震災の損害がいかに大きくてもそれは八十年か百年かに一回の出来事であるとすれば、これを年々根気よくこくめいに持続し繰り返す火事の災害に比すれば、長年の統計から見てはかえってそれほどのものでは・・・ 寺田寅彦 「函館の大火について」
出典:青空文庫