・・・その指令三百十一号には、突発事故が起きたらできるだけ復旧事務を拒否せよ、民同との摩擦を回避せよ、などという文句があったそうです。北海道に偽の指令が流れたことがあった。この指令もおそらくどこかの家宅捜索をすれば、「そこにもあった」ものとして発・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・社会事情の急調な動きは一つの必然として、自覚するとしないとにかかわらず、今日の婦人全体を新しい生活事情に導き入れており、そこではより社会的な規模で新しい生活能力の発揮されることを必要としており、新たな摩擦もおのずから生じて来ているのである。・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
・・・ わたしたちが、ほんとにこの社会でまともに生きようとするとき、現実とその願望との間には忽ち摩擦がおこって、いやでも応でも私たちに、自分のこの社会での立場、属している階級の意味を目ざまさせる。勤労して生きているものの人生の内容と、徒食生活・・・ 宮本百合子 「新しい文学の誕生」
・・・一九二七・八年からあとの日本の社会は、戦争強行と人権剥奪へ向って人民生活が坂おとしにあった時期であり、そこに生じた激しい摩擦、抵抗、敗北と勝利の錯綜こそ、「伸子」続篇の主題であった。そういう主題の本質そのものが、当時の社会状態では表現不可能・・・ 宮本百合子 「あとがき(『二つの庭』)」
・・・しかし、この運動は決して摩擦なしには発展せず、日本では、中村武羅夫、菊池寛その他の人々が文学の芸術性という点から、どこまでも無産派の文学運動に反対した。旧いブルジョア文学にはあき足らず、しかし、無産派文学には共感のもてない小市民的要素のきつ・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第三巻)」
・・・ソヴェト同盟に関する場合、社会主義建設の事業は現代大きい摩擦のうちに行われている厳粛な人類的事業であり、多面的であり、当然矛盾ももっている。正直な、客観的観察とその報告しか、そこにある現実をつたえにくい。小説化すことは、危険をもっている。ソ・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
・・・全篇の読後感は、作者が非常に熱心に目を放さず葉子の矛盾の各場面に駈けつけてそれを描いているが、葉子という一箇の女と当時の社会的な事情との相互関係から生じる深刻な摩擦については、比較的常識的な見方で終っている。葉子の悲劇を解くためには、葉子が・・・ 宮本百合子 「「或る女」についてのノート」
・・・ 作家が、作家となる最も端緒的な足どりは周囲の生活と自分のこうと思う生活との間で自覚される摩擦である。階級的にどんな立場をとるに至るにしろ、先ず自己というものの意識、それを確立しようとする欲望から出立することは小林多喜二の日記を見てもわ・・・ 宮本百合子 「落ちたままのネジ」
・・・ 抗争摩擦の面をさけてなるべく平和にと心がけられた結果、その努力は一面の成功と同時に、あんまり歴史がすべすべで民族自体の気力を感じさせる溌剌さを欠いている。それは、これまでの調子から離れようとしているときのさけがたいあらわれかもしれない・・・ 宮本百合子 「『くにのあゆみ』について」
・・・ 現代のように錯綜し緊張し、処々ではもう火をふき出している歴史の大摩擦の時期に当って、かつて或る才能を証明し得た作家が、歴史の本質を把握し得ないために、どんなに猛烈な自己分解を行うものであるかという、深刻な典型の一つを、ジイドは身を・・・ 宮本百合子 「こわれた鏡」
出典:青空文庫