・・・が、幸いとドクトルは、早くも私のふさいでいるのに気がついたものと見えて、巧に相手を操りながら、いつか話題を楢山夫人とは全く縁のない方面へ持って行ってくれましたから、私はやっと息をついて、ともかく一座の興を殺がない程度に、応対を続ける事が出来・・・ 芥川竜之介 「開化の良人」
・・・が、離れたと思うと落ちもせずに、不思議にも昼間の中空へ、まるで操り人形のように、ちゃんと立止ったではありませんか?「どうも難有うございます。おかげ様で私も一人前の仙人になれました。」 権助は叮嚀に御時宜をすると、静かに青空を踏みなが・・・ 芥川竜之介 「仙人」
・・・しかしいちばんおもしろかったのはダアク一座の操り人形である。その中でもまたおもしろかったのは道化た西洋の無頼漢が二人、化けもの屋敷に泊まる場面である。彼らの一人は相手の名前をいつもカリフラと称していた。僕はいまだに花キャベツを食うたびに必ず・・・ 芥川竜之介 「追憶」
・・・旅館の貸下駄にて、雨に懸念せず、ステッキを静人形使 (この時また土間の卓子画家 ははあ、操りですな。夫人 先生――ですか、あの、これは私のじゃあございませんの。画家 (はじめて心付きたる状どうも、これは失礼しました。いや、端・・・ 泉鏡花 「山吹」
・・・ 小宮山は冷たい汗が流れるばかり、南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏、と隣で操り進む百万遍の声。「姐さん、姐さん、」 小声で呼んでみたが返事がないので、もしやともう耐らず、夜具の上から揺振りました。「お雪さん・・・ 泉鏡花 「湯女の魂」
・・・ダアクの操り人形然と妙な内鰐の足どりでシャナリシャナリと蓮歩を運ぶものもあったが、中には今よりもハイカラな風をして、その頃流行った横乗りで夫婦轡を駢べて行くものもあった。このエキゾチックな貴族臭い雰囲気に浸りながら霞ガ関を下りると、その頃練・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・巷に雨のふるやうにわが心にも雨のふるという名高いヴェルレーヌの詩に傚って、もしもわたくしがその国の言葉の操り方を知っていたなら、巷に雪のつもるやう憂ひはつもるわが胸にあるいはまた巷に雪の消ゆる・・・ 永井荷風 「雪の日」
・・・そして、或者は低い口笛に合わせながら、或者は旋律に合わせて巧な櫂を操りながら、時を忘れて、水に浮ぶのでございます。 C先生、先生は此方の人々が愛用するカヌーを御承知でいらっしゃいますでしょう。両端の丸らかに刳上った幅狭の独木舟が、短かい・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・そこは操り人形になって来る。技術の上で非常に進歩的に、真面目に芸術的な効果の強い演出をやっている。 その舞台の恰好は特別な恰好で、古代ギリシャの舞台、お能の舞台のようで、三方があいて、それが観客席に突出ている。それだから観客の中から舞台・・・ 宮本百合子 「ソヴェト・ロシアの素顔」
・・・ 私共だって、一段上の趣味の高い完全な人から見ればそりゃあ又可笑しい事だらけだろうけれ共、何から何まで吊合わない、まるで糸の工合の悪い操り人形の様な事々を見せられると、 あれがよくまあ平気で居られる。と思わないわけには行・・・ 宮本百合子 「二十三番地」
出典:青空文庫