・・・ この評論集に書かれた内容、書かれざる内容をもたらしている八年の歳月は、プロレタリア文学運動が挫かれてのちの日本現代文学が、戦争の拡大と強行の政策に押しまくられて、爪先さがりにとめどもなく、ファシズムへの屈従に追いこまれて行った時代であ・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十一巻)」
・・・ ところが、さまざまの委員会が、民主化のための委員会として組織された当時、吉田茂は、占領政策に対して危惧をいだいていた。その後、日本の民主化にいろいろの変調が加えられて、たとえば用紙割当委員会の権限が、ずるずると内閣に属す委員会に移され・・・ 宮本百合子 「「委員会」のうつりかわり」
・・・ 広く知られている通りイタリーのアフリカ植民地政策の活溌さはエチオピア問題を見ても明かであり、リビアは最近急速に戦時軍需資源の獲得地となっている。鉄、ニッケル、ジュラルミン等の原鉱を多量に生産することが分ったそのためにイタリーは附近の土・・・ 宮本百合子 「イタリー芸術に在る一つの問題」
・・・保守の党が中央部、又は執行機関に婦人代議士を一人も包括しようとしていないばかりか、社会党も、婦人代議士は婦人部で、という風で、一政党の政策というよりも社会政策的な婦人部案を発表している。これらの立場は女としてはた目にも切ない。婦人代議士たち・・・ 宮本百合子 「一票の教訓」
・・・ 多くの作家が、これまでの歴史性による社会感覚の欠如から、今日における自分の発展と創造力更新のモメントを逃がしているように、日本の人民は、智慧と判断を否定し、声をおさえる政策のために、明日死ぬかもしれないその夜の家信でさえ、無事奉公して・・・ 宮本百合子 「歌声よ、おこれ」
・・・彼等の支配的、高等的政策にはあずかっていない。そのことが、「大人の文学」を提唱させる心理の奥に作用している。文化、文学を発展させる自主的な精神力の喪失、経済事情の今日の小市民層らしい逼迫などが、微妙にからみあっているのである。小説を書く人よ・・・ 宮本百合子 「「大人の文学」論の現実性」
・・・ナポレオンの独裁がはじまった時、ライン十六州は、ライン同盟を結んでナポレオンを保護者とし、その約束によって商工業の自由も守られ、ドイツの反動政策の圧迫にかかわらず、進歩的な自由思想が充ちていた。 こういう特色をもった十九世紀初頭のライン・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・『キング』は労働者の家庭にも農村にも入るのだが今日の軍事経済政策による深刻な生活難で、どこの誰の爺さんと孫が実際こんなにヌクヌク安楽な目をして暮らしているか? 欠食児童なんか聞いたこともない。稼ぎてを戦争へ引っぱり出されたので、生きる手・・・ 宮本百合子 「『キング』で得をするのは誰か」
・・・然れば今の地位に漱石君がすわるには、何の政策を弄するにも及ばなかったと信ずる。 二、社交上の漱石 二度ばかり逢ったばかりであるが、立派な紳士であると思う。 三、門下生に対する態度 門下生と云うような人・・・ 森鴎外 「夏目漱石論」
・・・室町時代の文化を何となく貶しめるのは、江戸幕府の政策に起因した一種の偏見であって、公平な評価ではない。我々はよほどこの点を見なおさなくてはなるまいと思う。 室町時代の中心は、応永永享のころであるが、それについて、連歌師心敬は、『ひとり言・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫