・・・「三四尺の火尾を曳いて弓形に登り、わが散兵線上に数個破裂した時などは、青白い光が広がって昼の様であった。それに照らされては、隠れる陰がない。おまけに、そこから敵の砲塁までは小川もなく、樹木もなく、あった畑の黍は、敵が旅順要塞に退却の際、・・・ 岩野泡鳴 「戦話」
・・・具体的には、一個または数個の異性と一体になろうとあがく特殊なる性的煩悶。色慾の Warming-up とでも称すべきか。」 ここに一個または数個と記したのは、同時に二人あるいは三人の異性を恋い慕い得るという剛の者の存在をも私は聞き及んで・・・ 太宰治 「チャンス」
・・・ それでもし各種母音に相当する口腔の形状大小を規定する若干の数量が定められれば、歌の口調というものはこれらの量を時間の函数として与える数個の方程式で与えられることになるので、従って口調というものの科学的研究がとにかくも可能になる訳である・・・ 寺田寅彦 「歌の口調」
・・・砂を敷いた平庭に数個の石を並べるだけでもその空間的モンタージュのリズムによって、そこに石の言葉でつづられた、しかも石によってのみつづられうる偉大なる詩が生じるのである。また一枚の浮世絵からでもわれわれはいろいろなモンタージュの手法を発見する・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・それで、もし、この式のほかに、場合によっていろいろ数はちがうが、とにかく数個の境界条件ならびに当初条件を表示する数式を与えると、そこで始めて一つの具体的な問題が設立され、設立されると同時に少なくも理論上には解式は決定されるのであって、学者は・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・普通の理論からすれば、ダルトン方則で、単に普通の指数曲線的垂直分布を示すはずのが、事実はこれに反して画然たる数個の段階に分かれるのである。仮定の抜けている理論の無価値なことを示す適例である。この場合の機巧もまだ全く闇の中にある。ことによると・・・ 寺田寅彦 「自然界の縞模様」
・・・又新しき数個の支部を設置しなければならない。そして文学運動における左傾と右傾の両偏向に対しては、従来の断乎たる態度をもって、闘争を継続しなければならない。 確乎たる指導、一切の偏向及び歪曲との断乎たる闘争、文学における真に正しいプロレタ・・・ 宮本百合子 「ニッポン三週間」
出典:青空文庫