・・・例えば文展や帝展でもそんな事があったような気がする。それにつけて私は、ラスキンが「剽窃」の問題について論じてあった事を思い出して、も一度それを読んでみた。その最後の項にはこんな事が書いてあった。「一般に剽窃について云々する場合に忘れてな・・・ 寺田寅彦 「浅草紙」
・・・「あの曲がった煙突をかくといいんだがなあ」などという者もあった。「文展へ行って見ろ、島村観山とか寺岡広業とか、ああいうのはみんな大家だぜ、こんなのとはちがわあ」「あれでもどっかへ持って行きゃあ、三十円や五十円にゃあなるんだよ」などいうのも聞・・・ 寺田寅彦 「写生紀行」
・・・毎年の文展や院展を見に行ってもこういう自分のいわゆる外道的鑑賞眼を喜ばすものは極めて稀であった。多くの絵は自分の眼にはただ一種の空虚な複製品としか思われなかった。少なくも画家の頭脳の中にしまってある取って置きの粉本をそのまま紙布の上に投影し・・・ 寺田寅彦 「津田青楓君の画と南画の芸術的価値」
・・・ 去年文展が帝展に変った時には大分色々の批評があった。ある人は面目を一新したと云って多大の希望をかけたようであり、またある人は別段の変りもないと云って落着いていた。前者は相に注目したのであり、後者は本質の事を云ったのであろう。今年も多少・・・ 寺田寅彦 「帝展を見ざるの記」
・・・ 私はこの間文展を見に行きました。(私は御存知の通り、職業が職業ですから、御話する事は一般の事でも、あるいは文芸ということが例になったり、またその方から出立する事が多いかも知れませんから、その方に興味のない方で、今申しましたように、この・・・ 夏目漱石 「模倣と独立」
・・・ 菊人形が国技館で開かれるようになってからは、見にゆく人の層も変ったらしいけれども、団子坂の菊人形と云われたことは、上野へ文展を見にゆく種類の人にも、そう縁の遠くない秋の行事の一つだったのではなかろうか。千駄木町に住んでいた漱石の作品の・・・ 宮本百合子 「菊人形」
・・・今竹内栖鳳やその他無カンサ組の文展招待展というのも別コにあって、殆どどれがどれやら素人に分らない位です。招待展評に曰く「文展の瘤展」「愚作堂に満つ」云々。この絵が大臣賞を貰っているのは大変面白いことです。これは普通の落選もある文展の方です。・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
千人針の女のひとたちが街頭に立っている姿が、今秋の文展には新しい風俗画の分野にとり入れられて並べられている。それらの女のひとたちはみな夏のなりである。このごろは秋もふけて、深夜に外をあるくと、屋根屋根におく露が、明けがたの・・・ 宮本百合子 「祭日ならざる日々」
この秋文展と殆ど同時に関西美術展というのが開催された。 病気からすっかり丈夫にならないので、明治大正美術展も見られなかったし、このときも行かれず、残念に思った。新聞に代表的な作品の写真がのったなかに、上村松園の作品があ・・・ 宮本百合子 「「青眉抄」について」
・・・漱石の三四郎が、きょうの読者の感覚でみればかなり気障でたまらない美禰子という美しい人に、当時の文展がえりを散歩に誘われ、この辺の田端田圃のどこかの草原に休んで、美禰子が夕映を眺めながら謎のように迷える羊というひとりごとをくりかえすのをきいた・・・ 宮本百合子 「田端の汽車そのほか」
出典:青空文庫