・・・ 三 文楽の義太夫を聞きながら気のついたことは、あの太夫の声の音色が義太夫の太棹の三味線の音色とぴったり適合していることである、ピアノ伴奏では困るのである。 小唄勝太郎の小唄に洋楽の管絃伴奏のついた放送を・・・ 寺田寅彦 「雑記帳より(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・しかしその時の事は、大方忘れてしまった中に、一つ覚えているのは、文楽座で、後に摂津大掾になった越路太夫の、お俊伝兵衛を聴いたことだけである。 やがて船が長崎につくと、薄紫地の絽の長い服を着た商人らしい支那人が葉巻を啣えながら小舟に乗って・・・ 永井荷風 「十九の秋」
・・・ 桃龍は、文楽人形のようなグロテスクなところがどこにかある顔で対手を睨むような横目した。「――怪体な舞まわされて、走らずにいられへんわ」 都踊りの最後の稽古の日、その日はまあ大事の日だから、自信のある年嵩の連中でもちゃんと時間前・・・ 宮本百合子 「高台寺」
・・・ 芝居は歌舞伎劇や文楽の人形浄瑠璃なぞ好きです。新劇は築地小劇場のものや、武者小路さんのものが好きです。嫌いなのは、黙阿彌張りか何かで、それでいて新作まがいの中途半端の芝居です。 活動写真も好きです。しかし網野さんほどではないかも知・・・ 宮本百合子 「身辺打明けの記」
日本文化協会の催しで文楽座の人形使いの名人吉田文五郎、桐竹紋十郎諸氏を招いて人形芝居についての講演、実演などがあった。竹本小春太夫、三味線鶴沢重造諸氏も参加した。人形芝居のことをあまり知らない我々にとってはたいへんありがたい催しであっ・・・ 和辻哲郎 「文楽座の人形芝居」
出典:青空文庫