・・・これは、ひょっとしたら、断頭台への一本道なのではあるまいか。こうして、じりじり進んでいって、いるうちに、いつとはなしに自滅する酸鼻の谷なのではあるまいか。ああ、声あげて叫ぼうか。けれども、むざんのことには、笠井さん、あまりの久しい卑屈に依り・・・ 太宰治 「八十八夜」
・・・それから断頭吏の歌をうたって斧を磨ぐところについて一言しておくが、この趣向は全くエーンズウォースの「倫敦塔」と云う小説から来たもので、余はこれに対して些少の創意をも要求する権利はない。エーンズウォースには斧の刃のこぼれたのをソルスベリ伯爵夫・・・ 夏目漱石 「倫敦塔」
・・・父の死後母は熱心な王党員である司令副官と結婚し、この一家とマリイ・アントワネットのきずなは、アントワネットが断頭台にのぼる前、ロオルの母に自分の髪飾りと耳輪とを形見に与えた程深いものであった。 そのような環境の中に幼時を経た頭の鋭い感傷・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
出典:青空文庫