・・・仕えてはじめて草畧の茶を開き、この時よりして茶道大いに本朝に行われ、名門豪戸競うて之を玩味し給うとは雖も、その趣旨たるや、みだりに重宝珍器を羅列して豪奢を誇るの顰に傚わず、閑雅の草庵に席を設けて巧みに新古精粗の器物を交置し、淳朴を旨とし清潔・・・ 太宰治 「不審庵」
・・・乍チニシテ島原ノ妓楼廃止セラレテ那ノ輩這ノ地ニ転ジ、新古互ニ其ノ栄誉ヲ競フニオヨンデ、好声一時ニ騰々タルコトヲ得タリ。現在大楼ト称スル者今其ノ二三ヲ茲ニ叙スレバ即曰ク松葉楼曰ク甲子楼曰ク八幡楼、曰ク常盤楼、曰ク姿楼、曰ク三木楼等、維們最モ群・・・ 永井荷風 「上野」
・・・背後が襖のない棚になっていて、その上の方に『新小説』『文芸倶楽部』『女鑑』『女学雑誌』というような雑誌が新古とりまぜ一杯積み重ねてあって、他の一方には『八犬伝』『弓張月』『平家物語』などの帝国文庫本に浪六の小説、玄斎の小説などがのっていた。・・・ 宮本百合子 「祖父の書斎」
・・・しかし源氏物語の文章は、詞の新古は別としても、とにかく読みやすい文章ではないらしゅう思われます。 そうして見ますれば、特に源氏物語の訳本がほしいと思っていたわたくし、今晶子さんのこの本を獲て嬉しがるわたくしと同感だという人も、世間に少な・・・ 森鴎外 「『新訳源氏物語』初版の序」
出典:青空文庫