・・・そして、この新興日本にふさわしい大啓蒙学者は青年のような英気をもって、「夫れ女子は男子に等しく生れて」という冒頭の一句から全篇二十三ヵ条にわたって真に心と肉体の健やかで人間らしい娘、妻、母を生むために必須な社会向上の要点を力説しているのであ・・・ 宮本百合子 「女性の歴史の七十四年」
・・・人民を犠牲とする戦争に金を出すことで一層儲かった者が日本人の中にいて、その利益に立ってことが運ばれたからにほかならない。新興財閥はすべて軍需企業家であった。集中排除法は、そういう企業とその経済力に向けられたものであった。それが緩和されるとき・・・ 宮本百合子 「正義の花の環」
・・・しかし、同じ戦敗のドイツの中でも、そしてあの世界史的なドイツのインフレーションの中でも、第一次大戦によって軍需成金となった新興財閥は存在した。それら一握りの新マーク階級の人々は彼等の特権にとって有利でない人民的な生産様式にドイツの社会が進化・・・ 宮本百合子 「それらの国々でも」
・・・ 今はそれでいいとし、然し五ヵ年計画が終って、いろんな仕事が一段落ついたら、丁度東京の新興事業が終ったと同時に失業者がましたように、ソヴェト同盟にも亦、うんとあぶれものが出来るんじゃないか? その心配は、ソヴェト同盟では不用だ。ソヴ・・・ 宮本百合子 「なぜソヴェト同盟に失業がないか?」
・・・○デーニギ 電報が来るまで待って居てよろしい? 私銀行へ若しかしたら行きません。○リリオム いいでしょう?○新興芸術では、チェッコ・スロァキア注目に価すると思った。行きましょうね? 一九二八年九月四日〔マクシ・・・ 宮本百合子 「日記・書簡」
・・・そして、日本民族の運命を破滅させた戦争によって財を蓄え、社会的地位をのしあげた新興階級――漱石はこういう社会層を成金とよんだ――の子弟達が、人間となった天皇の子息とひとつ学校に入れるという親の感激によって、入学して来ているということ。学習院・・・ 宮本百合子 「日本の青春」
・・・俳諧の流行そのものが、云ってみれば新興の文化であり、商人と一般庶民階級の自在な感情表現の欲求にその地盤をおいた文学であった。談林派の俳諧というものは、その先達であった貞門と同じように俳諧を滑稽の文学と見ており、談林は詩型のリズムに自由を求め・・・ 宮本百合子 「芭蕉について」
・・・ ベルニィ夫人の生活は、その時既に新興ブルジョアと成上り貴族によって経済的に圧迫された貴族、人知れずやりくりに心を労し「小作人、家政のうんざりする細々したこと」に自ら煩わされなければならない、落魄に瀕した旧貴族階級の典型のようなものであ・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・抒情詩においては、和歌の形式がいまの思想を容るるに足らざるをおもい、また詩が到底アルシャイスムを脱しがたく、国民文学として立つゆえんにあらざるをいったので、款を新詩社とあららぎ派とに通じて国風新興を夢みた。小説においては、済勝の足ならしに短・・・ 森鴎外 「なかじきり」
・・・ 民衆のなかに右のような思想が動いていたとして、次に第二に、新興武士階級においてはどうであったであろうか。 新興武士階級も武力をもって権力を握ろうとする点において旧来の武士階級と異なったものではないが、しかし応仁以前の伝統的な武・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫