・・・ 子供らはこの卵の三つか四つを日当たりのいい縁側の下の土に埋めておいた。数日たった後に掘ってみたらもう何もなかったそうである。ここにも大きな奇蹟はあった。 十日ほどにわたった芝刈りがやっと終わった。結果はあまり体裁のいいほうではなか・・・ 寺田寅彦 「芝刈り」
・・・しかしこの平板な野の森陰の小屋に日当たりのいい縁側なりヴェランダがあってそこに一年のうちの選ばれた数日を過ごすのはそんなに悪くはなさそうに思われた。 ついそんな田園詩の幻影に襲われたほどにきょうの夕日は美しいものであった。 長い・・・ 寺田寅彦 「写生紀行」
・・・やっと通されると応接間というのがまた大概きまって家中で一番日当りの悪い一番寒い部屋になっているようである。 自分が昔現在の家を建てたとき一番日当りがよくて庭の眺めのいい室を応接間にしたら、ある口の悪い奥さんから「たいそう御客様本位ですね・・・ 寺田寅彦 「新年雑俎」
・・・ 牧場の周囲に板状の岩片を積んだ低い石垣をめぐらし、出入り口にはターンパイクがこしらえてあった。日当たりのいい山腹にはところどころに葡萄畑がある。そして道ばたにマドンナを祭るらしい小祠はなんとなく地蔵様や馬頭観世音のような、しかしもう少・・・ 寺田寅彦 「旅日記から(明治四十二年)」
・・・今日はそこが日当りがいいから、そこのとこの草を刈れ。」やまねこは巻たばこを投げすてて、大いそぎで馬車別当にいいつけました。馬車別当もたいへんあわてて、腰から大きな鎌をとりだして、ざっくざっくと、やまねこの前のとこの草を刈りました。そこへ四方・・・ 宮沢賢治 「どんぐりと山猫」
・・・監獄の病舎は、南側の日当りのいい方はただ歩く廊下にしてあるのだそうです。日の当らない北側だけが病室にあてられているときいて、私は憎らしい気がしました。四年間に二十七名の党員たちが死んだのだそうです。よくバスの車掌さんなんかで警察へつかまると・・・ 宮本百合子 「共産党公判を傍聴して」
・・・田端の白梅の咲いている日当りよい崖の上に奥さんと暮していて、一日じゅう障子の前に座り、一つ一つと紙に指で穴をあけて、それを見て笑っているという気違いであった。そして遂に正気に戻らず亡くなった。 品川の伯父さんは、良人が留守な姪の子たちを・・・ 宮本百合子 「白藤」
・・・その坂のところでも僅かな平地に日当り悪そうな三階建が立ちかかっていた。一雨で崩れそうなごろた石の石垣について曲り、道でないような土産屋の庇下を抜けると、一方は崖、一方に川の流れている処へ出た。川岸に数軒ひどい破屋があって、一軒では往来から手・・・ 宮本百合子 「白い蚊帳」
・・・ ○寒い日当りのよいところがよい ○夜のうちに凍らす ○甲府 ○兀突と結晶体のような山骨 ○山麓のスロープから盆地に向って沢山ある低い人家 ○山嶺から滝なだれに氷河のような雪溪がながれ下って居る。・・・ 宮本百合子 「一九二七年春より」
・・・Monet なんぞは同じ池に同じ水草の生えている処を何遍も書いていて、時候が違い、天気が違い、一日のうちでも朝夕の日当りの違うのを、人に味わせるから、一枚見るよりは較べて見る方が面白い。それは巧妙な芸術家の事である。同じモデルの写生を下手に・・・ 森鴎外 「カズイスチカ」
出典:青空文庫