・・・日本人が書いたのでは、七十八日遊記、支那文明記、支那漫遊記、支那仏教遺物、支那風俗、支那人気質、燕山楚水、蘇浙小観、北清見聞録、長江十年、観光紀游、征塵録、満洲、巴蜀、湖南、漢口、支那風韻記、支那――編輯者 それをみんな読んだのですか?・・・ 芥川竜之介 「奇遇」
・・・その頃はマダ右眼の失明がさしたる障碍を与えなかったらしいのは、例えば岩崎文庫所蔵の未刊藁本『禽鏡』の失明の翌年の天保五年秋と明記した自筆の識語を見ても解る。筆力が雄健で毫も窘渋の痕が見えないのは右眼の失明が何ら累をなさなかったのであろう。・・・ 内田魯庵 「八犬伝談余」
・・・男の名は、いまになっては、少し有名になってしまって、ここには、わざと明記しない。 弱く、あさましき人の世の姿を、冷く三つ列記したが、さて、そういう乃公自身は、どんなものであるか。これは、かの新人競作、幻燈のまちの、なでしこ、はまゆう・・・ 太宰治 「あさましきもの」
・・・と云うが、そういう諸君の現在していることの予報がその『徒然草』にちゃんと明記してあるのである。 鼎をかぶって失敗した仁和寺の法師の物語は傑作であるが、現今でも頭に合わぬイズムの鼎をかぶって踊って、見物人をあっと云わせたのはいいが、あとで・・・ 寺田寅彦 「徒然草の鑑賞」
・・・とっていろいろ真面目な問題を持っている。第十二条に、「凡そ人は法の下に平等にして、人種、信条、性別、社会的地位、又は門地に依り政治的、経済的、社会的関係に於て差別をうくることなきこと」と明記されている。一方、人であって他の動物ではない天皇と・・・ 宮本百合子 「現実の必要」
・・・会の運営は民主的な会議制を原則とすると明記していることも、旧い文壇の先輩、後輩のしきたりにとらわれたり、ひきにたよったりする文学的卑屈さを排そうとする性格をあらわしているように見える。同人雑誌であってもその中で積極的な能力を示す、人々のヘゲ・・・ 宮本百合子 「しかし昔にはかえらない」
・・・があらわれていると半ば苦笑の心持もあってその本を手にとってみたら、それはどこかの場当りなブック・メイカアがこしらえているものではなくて、官立大学の学生主事をしている人が、そういう職名もちゃんと肩書きに明記して著している本であった。 この・・・ 宮本百合子 「生態の流行」
・・・憲法は明記しています。“すべての人が良心の自由をもっているということを”〔一九四八年四月〕 宮本百合子 「世界は平和を欲す」
・・・これらの人々は、一歩ずつより合理的な生産の関係に入ろうとし、憲法が明記している基本的人権を実現させようと努力している。経済的な要求の必然は、今日生きて働いているすべての人にわかっている。けれども、人間は食だけで生きているものだろうか。或は投・・・ 宮本百合子 「文化生産者としての自覚」
・・・支配権力が自身の権力の擁護のためにつくった傾きがつよいから、人民の諸問題よりも大権を絶対のものとして明記してあることに注意が集注されている。人民の諸権利についての具体的条項は、漠然としてしか扱われていない。ましてや、この特異な日本憲法におい・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫