・・・ ざっと、かくの次第であった処――好事魔多しというではなけれど、右の溌猴は、心さわがしく、性急だから、人さきに会に出掛けて、ひとつ蛇の目を取巻くのに、度かさなるに従って、自然とおなじ顔が集るが、星座のこの分野に当っては、すなわち夜這星が・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・そして、じっと眼をつむっていると、カシオペヤ星座が暗がりに泛び上って来た。私は空を想った。降るような星空を想った。清浄な空気に渇えた。部屋のどこからも空気の洩れるところがないということが、ますます息苦しく胸をしめつけた。明けはなたれた窓にあ・・・ 織田作之助 「秋深き」
・・・壁にかかった星座早見表は午前三時が十月二十何日に目盛をあわせたまま埃をかぶっていた。夜更けて彼が便所へ通うと、小窓の外の屋根瓦には月光のような霜が置いている。それを見るときにだけ彼の心はほーっと明るむのだった。 固い寝床はそれを離れると・・・ 梶井基次郎 「冬の日」
・・・その理は十二宮は太陽運行に基き、二十八宿は太陰の運行に基きしものなれば、陽の初なる東とその極なる南とを十二宮に、陰の初の西とその極の北とを二十八宿の星座に據らしめしものと見らるればなり。 されば堯典記載の天文が、今日の科學的進歩の結果と・・・ 白鳥庫吉 「『尚書』の高等批評」
・・・それから五つの煙の塊が空中に描く屈曲した線が色々の星座のような形をして、またそれが垂直に近くなったり、水平に近く出たり、あるいは色々な角度に傾斜するのも面白かった。それらの塊が風に流されて行く間にだんだん相対的位置を変えて行くのが、上層の風・・・ 寺田寅彦 「雑記(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
・・・渾天に散布された星の位置を覚えるのに、星の間を適当に直線で連ねていろいろの星座をこしらえる。それを一度覚えてしまえばいつ見てもそれだけの星がまとまって見えるし、これとだいたいに似た点の排列を見ればそれが実際にはかなりいびつになっていてもすぐ・・・ 寺田寅彦 「自画像」
・・・そして近刊の天文の雑誌を調べてみるとそれが火星だという事がすぐに判った。星座図を出して来てあたってみるとそれは処女宮の一等星スピカの少し東に居るという事がわかった。それでその図の上に鉛筆で現在の位置をしるし、その脇へ日附をかいておいて、この・・・ 寺田寅彦 「小さな出来事」
一、午后の授業「ではみなさんは、そういうふうに川だと云われたり、乳の流れたあとだと云われたりしていたこのぼんやりと白いものがほんとうは何かご承知ですか。」先生は、黒板に吊した大きな黒い星座の図の、上から下へ白くけぶった銀河帯のよ・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
・・・空もいつかすっかり霽れて、桔梗いろの天球には、いちめんの星座がまたたきました。 雪童子らは、めいめい自分の狼をつれて、はじめてお互挨拶しました。「ずいぶんひどかったね。」「ああ、」「こんどはいつ会うだろう。」「いつだろう・・・ 宮沢賢治 「水仙月の四日」
・・・ 獅子鼻の上の松林は、もちろんもちろん、まっ黒でしたがそれでも林の中に入って行きますと、その脚の長い松の木の高い梢が、一本一本空の天の川や、星座にすかし出されて見えていました。 松かさだか鳥だかわからない黒いものがたくさんその梢にと・・・ 宮沢賢治 「二十六夜」
出典:青空文庫