・・・神崎はきょろきょろしながら、「春子さん、何物も無いじアありませんか。」「ほら其処に妙な物が。……貴様お眼が悪いのねエ」「どれです。」「百日紅の根に丸い石があるでしょう。」「あれが如何したのです。」「妙でしょう。」・・・ 国木田独歩 「恋を恋する人」
絶望 文造は約束どおり、その晩は訪問しないで、次の日の昼時分まで待った。そして彼女を訪ねた。 懇親の間柄とて案内もなく客間に通って見ると綾子と春子とがいるばかりであった。文造はこの二人の頭をさすって、姉さんの病気は少しは快く・・・ 国木田独歩 「まぼろし」
・・・ 神崎氏の年表に、三十六年鳩山春子選挙演説を行うとあるけれども、それは恐らく愛する良人か息子のために、この有名な老夫人が出馬応援したという範囲のことであろう。 大正九年、大戦後の波は日本の社会にもうちよせ平塚雷鳥の新婦人協会が治安警・・・ 宮本百合子 「女性の歴史の七十四年」
・・・、高橋春子さんの「コスモスの花にゆれる秋」、矢倉ふき代さんの「夫は星をほしがらなかった」の三つの文章にあふれている苦痛と、理性、勇気などは、その人々にそうと自覚されている程度は浅いにしろ、何と、この世界の女性の動きに通じたものだろう。 ・・・ 宮本百合子 「「未亡人の手記」選後評」
出典:青空文庫