今日、日本は全面的な再出発の時機に到達している。軍事的だった日本から文化の国日本へということもいわれ、日本の民主主義は、明治以来、はじめて私たちの日常生活の中に浸透すべき性質のものとしてたち現れてきた。 民主という言葉・・・ 宮本百合子 「歌声よ、おこれ」
・・・労を感じないもののない程、我々人間は、人間の小細工でこしらえすぎた過去の文化に対して連帯責任を持っているし、他面から考えれば、そんなことを、都会人らしい感傷と女々しさでくどくどいっていられない、大切の時機に面しているとも思います。男や女とい・・・ 宮本百合子 「男…は疲れている」
・・・はやわらかいクレパスで、暖かい色調の紅い線で描かれた人生の歴史的時機のクロッキーとも云える作品である。省略され、ときには素早い現実の動きをおっかけた飛躍のあるタッチで、重吉とひろ子という一組の夫婦が、一九四五年の日本の秋から冬にかけてのめを・・・ 宮本百合子 「解説(『風知草』)」
・・・ 処女会、御用反動雑誌の読書会等の影響から一人でも多く婦人大衆を引きはなし、プロレタリア文化・文学運動の影響下におくことは、この階級闘争の切迫した時機、一刻もなおざりにされ得ない仕事なのだ。 出征兵士の相当ある地方では、出征兵士の家・・・ 宮本百合子 「国際無産婦人デーに際して」
・・・ 八月号の『世界評論』丹羽文雄氏の小説「一時機」と、七、八月『時論』にのった山口一太郎元大尉の二・二六事件の真相「嵐はかくして起きた」「嵐のあとさき」をよみくらべた人はそこに不可解な一つの重複というか、複写版というか問題があることに気づ・・・ 宮本百合子 「作家は戦争挑発とたたかう」
・・・その腹稿をやっと三十二年になって公表の時機を見出したということには、それ迄の日本が岸田その他の婦人政客を例外的に生みながらも、全体としては「真面目に女大学論など唱えても」耳を傾ける人のすくない状態におかれていたからにほかならない。 婦人・・・ 宮本百合子 「女性の歴史の七十四年」
・・・ 文化綜合雑誌として目下われわれは『文化集団』『知識』『生きた新聞』『進歩』などを読む便宜をもってい、新年号はそれぞれ時機を反映した内容を盛っている。私の印象では、同じく綜合的性質をもつ雑誌ではあるが、各編輯者がもっとそれぞれの特色・・・ 宮本百合子 「新年号の『文学評論』その他」
・・・しかし、これは云うべき時機であるが故に云ったにすぎない。いつまでも自分は感覚と云う言葉を云っていたくはない。またそれほどまでに云うべきことでは勿論ない。感覚は所詮感覚的なものにすぎないからだ。だが、感覚のない文学は必然に滅びるにちがいない。・・・ 横光利一 「新感覚論」
・・・ 二 彼と妻との間には最早悲しみの時機は過ぎていた。彼は今まで医者から妻の死の宣告を幾度聞かされたか分らなかった。その度に彼は医者を変えてみた。彼は最後の努力で彼の力の及ぶ限り死と戦った。が、彼が戦えば戦うほど、・・・ 横光利一 「花園の思想」
・・・もしこの種の外形的な努力が反省なしに続けて行かれるならば、日本画は低級芸術として時代の進展から落伍する時機が来るであろう。 この危険を救うものは画家の内部の革新である。芸人をやめて芸術家となることである。 院展日本画の大体としての印・・・ 和辻哲郎 「院展日本画所感」
出典:青空文庫