・・・ ――オイ――と、扉の方から呼ぶ。 ――何だ! 私は答える。 ――暴れちゃいかんじゃないか。 ――馬鹿野郎! 暴れて悪けりゃなぜ外へ出さないんだ! ――出す必要がないから出さないんだ。 ――なぜ必要がないんだ。 ・・・ 葉山嘉樹 「牢獄の半日」
・・・のある、コレラ菌が暴れ廻っていた。 全速力の汽車が向う向いて走り去るように、彼はズンズン細くなった。 ベッドから、食器棚から、凸凹した床から、そこら中を、のたうち廻った。その後には、蝸牛が這いまわった後のように、彼の内臓から吐き出さ・・・ 葉山嘉樹 「労働者の居ない船」
・・・あんまり暴れてはいかんぞ。」 くじらが頭をかいて平伏しました。 愕ろいた事には赤い光のひとでが幅のひろい二列にぞろっとならんで丁度街道のあかりのようです。「さあ、参りましょう。」海蛇は白髪を振って恭々しく申しました。二人はそれに・・・ 宮沢賢治 「双子の星」
・・・豚はばたばた暴れたがとうとう囲いの隅にある、二つの鉄の環に右側の、足を二本共縛られた。「よろしい、それではこの端を、咽喉へ入れてやって呉れ。」畜産の教師は云いながら、ズックの管を助手に渡す。「さあ口をお開きなさい。さあ口を。」助手は・・・ 宮沢賢治 「フランドン農学校の豚」
・・・なるほど私たちは観ている中に思わず唸るほどたっぷり沙漠を見せられるが、その沙漠はただ風が吹き暴れたり、陽が沈んだり、夜が明けたりする変化に於てだけとらえられている。反復が芸術的に素朴な手法でされているものだから、希望される最も低い意味での風・・・ 宮本百合子 「イタリー芸術に在る一つの問題」
・・・「――もち論あれがシュロの葉の立てる音だということはわかってはいるが……しかし、万一、そう万万万ガ一、その吉さという男が、血迷って女房を殺し、おれを馬鹿だといって笑ったかかあはどこにいると暴れ込んで来たら、自分はどうそれを扱ったものであ・・・ 宮本百合子 「田舎風なヒューモレスク」
・・・神話に、天照大神が機を織っていたらば、素戔嗚尊が暴れ込んで、馬の生皮を投げ込んで機を滅茶滅茶にしてしまったという插話がある。女酋長である天照大神はそれを憤って、おそらくその頃の住居でもあった岩屋にとじ籠って戸をしめてしまった。神々は閉口した・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・反動団が暴れ込んでデモをぶちこわそうとすることから起る。それを、社会主義にかこつける。ピルスーヅスキーの手腕も馬鹿にはできない。わたしは思わずニヤついた。「大丈夫ですよ。あたしが殺される心配はまあないから、どこにあるか教えて下さい」・・・ 宮本百合子 「ワルシャワのメーデー」
出典:青空文庫