・・・「だってフランは暴落するしさ」「それは新聞を読んでいればね。しかし向うにいて見給え。新聞紙上の日本なるものはのべつ大地震や大洪水があるから」 するとレエン・コオトを着た男が一人僕等の向うへ来て腰をおろした。僕はちょっと無気味にな・・・ 芥川竜之介 「歯車」
・・・大戦後の混乱は有名なマークの暴落をひきおこし、一方にすさまじい成りあがりを生み出しながら、中産階級は没落して、エリカ・マンさえ靴のない春から秋までをすごさねばならぬ状態におちいった。絶望し、分別を失ったドイツの民衆は、それがなんであろうと目・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
・・・竹中、元、実業界に居た男、大正九年の暴落でつぶれ、竹内のところでごろつき、会に入れて貰う。赤坂の芸者にひっかかった尻ぬぐいその他すっかりさせた男、段々隣保館で勢力を得て、今しきりに反竹内熱をたきつけて乗とろうとして居る。その男が、まあそ・・・ 宮本百合子 「一九二七年春より」
出典:青空文庫