・・・という話は、まだ書肆の手にわたしはせぬが、多分新小説に出ることになるだろう。 子供はこの話には満足しなかった。大人の読者はおそらくは一層満足しないだろう。子供には、話したあとでいろいろのことを問われて、私はまたやむことを得ずに、いろいろ・・・ 森鴎外 「寒山拾得縁起」
・・・その婿が山王町の書肆伊三郎である。そして香以は晩年をこの夫婦の家に送った。 伊三郎の女を儔と云った。儔は芥川氏に適いた。龍之介さんは儔の生んだ子である。龍之介さんの著した小説集「羅生門」中に「孤独地獄」の一篇がある。その材料は龍之介さん・・・ 森鴎外 「細木香以」
・・・就中私の手許から贈遺した本には、正誤表の出来た後、それを添えなかったことはない。書肆富山房も誠意がないではなかったが、買った本は誰が買ったか分からぬので、正誤表の送りようがないと云うことであった。帝国劇場で第一部の興行のあった時、第一部の正・・・ 森鴎外 「不苦心談」
・・・あの本を発行している書肆富山房は初第一部を千五百部印刷して神田の大火に逢った。その時千部は焼けて五百部残った。幸な事にはまだ紙型が築地の活版所から受け取って無かったので、これは災を免れた。そのうちに第一部の正誤が出来たので、一面紙型を象嵌で・・・ 森鴎外 「訳本ファウストについて」
出典:青空文庫