・・・ 最も一般的に感じられたのは、訣れを前に見て、その最悪の場合というものを考えて、結婚をのばし、躊躇する気分ではなかったろうか。千人針というようなものが目新しい街頭風景であった頃は、確かにその気分が親たちの分別から流れ出して、若い男の思慮・・・ 宮本百合子 「これから結婚する人の心持」
・・・小林多喜二の文学者としての生涯は、日本の最悪の条件のなかにあって猶且つ、そのように生き貫いた典型の一つである。〔一九四六年三月〕 宮本百合子 「今日の生命」
・・・そして、真の新世代はこんにち、社会的矛盾の相剋の最悪の事情において闘いながら、その争いにともなって自身の文学を創ってゆかなければならない。そこには、先ず勤労人として生活しながら、文学を愛好する面では消費的で、従来の文学青年的であるというよう・・・ 宮本百合子 「十月の文芸時評」
・・・そういう不幸がおこったとき、最悪の点は、農村人と都会人との感情の疎隔である。この疎隔さえあれば、支配権力にとってこわいことはない。何故なら、人民の結集する能力は、最も根本で二つに裂かれてしまうのであるから。 このような考えのめぐらしかた・・・ 宮本百合子 「人民戦線への一歩」
・・・小林多喜二――せまい文学理解と、あやまった政治家的うぬぼれによって、われ一人プロレタリア作家という顔をし、仲間のすべての労作をめちゃめちゃにきりきざんでそのあとに無をのこす日本プロレタリア文学の発展に最悪の影響をあたえてる連中」であること「・・・ 宮本百合子 「前進のために」
・・・いま、わたしたちが、中国人民の勝利に対して衷心からのよろこびと友誼の感情を語るにつけ、日本の帝国主義が、中国解放のために最悪の妨害的存在以外の何ものでもなかったという事実を思いかえさずにはいられません。しかし、中国の人々は人民たる真情によっ・・・ 宮本百合子 「宋慶齢への手紙」
・・・ 世界のこういう現実を、わたしたちが経験した戦争の十数年間、最悪の数年間と思いくらべたとき、わたしたちの胸にどういう感想が湧くだろう。古い軍歌に「四面海もてかこまれし」とうたわれた日本は、東も西も大陸からきりはなれていて、弦をはったよう・・・ 宮本百合子 「それらの国々でも」
・・・「革命の与える経済的擾乱ほど悲惨なものはない。」最悪よりはより尠き悪を、大衆による広汎な悪徳の伝播よりは、まだしもブルジョアの今のままでの悪行を! そして、自分が無一文になるよりは腹立たしいが今あるものを手離さず! そういうのがバルザッ・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・と最悪の場合は死刑までふくむ法文を引用して見解を示している。 ところが事件の十五日夜アリバイがはっきりしているために「やや焦燥の色濃い東京地検堀検事正、馬場次席検事は」「教唆罪もあり得る」と語っている。検事のこの言葉は「あり得る」あらゆ・・・ 宮本百合子 「犯人」
・・・それを念頭において今日の政治を観察し、ポツダム宣言に誓われた日本の民主化が巧妙に内外のファシズム勢力の増殖にすりかえられてゆく過程を注視すると、便乗というものの最悪の典型がそこに発見される。日本の小規模な独占資本は、より強大な国外の独占資本・・・ 宮本百合子 「便乗の図絵」
出典:青空文庫