・・・祭壇の前に集った百人に余る少女は、棕櫚の葉の代りに、月桂樹の枝と花束とを高くかざしていた――夕栄の雲が棚引いたように。クララの前にはアグネスを従えて白い髯を長く胸に垂れた盛装の僧正が立っている。クララが顔を上げると彼れは慈悲深げにほほえんだ・・・ 有島武郎 「クララの出家」
・・・その人の額の月桂樹の冠は、他の誰にも見えないので、きっと馬鹿扱いを受けるでしょうし、誰もお嫁に行ってあげてお世話しようともしないでしょうから、私が行って一生お仕えしようと思っていました。私は、あなたこそ、その天使だと思っていました。私でなけ・・・ 太宰治 「きりぎりす」
・・・「緑の月桂樹」岩波新書の「メチニコフの生涯」はいずれも、それぞれ感銘浅くない本である。「ベルツの日記」「日本その日その日」は明治開化期の日本の文化のありようと、後に日本の科学の大先輩として貢献した人々の若き日の真摯な心情とを、医学者としての・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」
一 或る日、ユーラスはいつもの通り楽しそうな足取りで、森から森へ、山から山へと、薄緑色の外袍を軽くなびかせながら、さまよっていました。銀色のサンダルを履き、愛嬌のある美くしい巻毛に月桂樹の葉飾りをつけた彼が、いかにも長閑な様・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・そして額の上には永遠にしぼむことのない月桂樹の冠が誇らしくこびりついている。 この顔こそは我らの生の理想である。四 苦患を堪え忍べ。 苦患に堪える態度は一つしかない。そしてそれをベエトォフェンの面が暗示する。苦患に打・・・ 和辻哲郎 「ベエトォフェンの面」
出典:青空文庫