・・・白蓮事件、有島事件、武者小路事件――公衆は如何にこれらの事件に無上の満足を見出したであろう。ではなぜ公衆は醜聞を――殊に世間に名を知られた他人の醜聞を愛するのであろう? グルモンはこれに答えている。――「隠れたる自己の醜聞も当り前のよう・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・ここまでいうと「有島氏が階級争闘を是認し、新興階級を尊重し、みずから『無縁の衆生』と称し、あるいは『新興階級者に……ならしてもらおうとも思わない』といったりする……女性的な厭味」と堺氏の言った言葉を僕自身としては返上したくなる。 次に堺・・・ 有島武郎 「片信」
・・・――(この枇杷の樹が、馴染の一家族の塒なので、前通りの五本ばかりの桜の樹(有島にも一群――時に、女中がいけぞんざいに、取込む時引外したままの掛棹が、斜違いに落ちていた。硝子一重すぐ鼻の前に、一羽可愛いのが真正面に、ぼかんと留まって残っている・・・ 泉鏡花 「二、三羽――十二、三羽」
・・・国木田独歩を恋に泣かせ、有島武郎の小説に描かれた佐々木のぶ子の母の豊寿夫人はその頃のチャキチャキであった。沼南夫人はまた実にその頃の若い新らしい側を代表する花形であった。 今日の女の運動は社交の一つであって、貴婦人階級は勿論だが、中産以・・・ 内田魯庵 「三十年前の島田沼南」
・・・樋口一葉 にごりえ、たけくらべ有島武郎 宣言島崎藤村 春、藤村詩集野上弥生子 真知子谷崎潤一郎 春琴抄倉田百三 愛と認識との出発、父の心配 倉田百三 「学生と生活」
・・・私は鴎外の歴史小説が好きでしたけれど、芹川さんは、私を古くさいと言って笑って、鴎外よりは有島武郎のほうが、ずっと深刻だと私に教えて、そのおかたの本を、二三冊持って来て下さいましたけれど、私が読んでも、ちっともわかりませんでした。いま読むと、・・・ 太宰治 「誰も知らぬ」
二科会 有島生馬氏。 この人の色彩が私にはあまり愉快でない。いつも色と色とがけんかをしているようで不安を感じさせられる。ことしの絵も同様である。生得の柔和な人が故意に強がっているようなわざとらしさを感じる。それ・・・ 寺田寅彦 「昭和二年の二科会と美術院」
・・・さればいかなる場合にも、わたくしは、有島、芥川の二氏の如く決然自殺をするような熱情家ではあるまい。数年来わたくしは宿痾に苦しめられて筆硯を廃することもたびたびである。そして疾病と老耄とはかえって人生の苦を救う方便だと思っている。自殺の勇断な・・・ 永井荷風 「正宗谷崎両氏の批評に答う」
有島さんの死は余りに私にとっては大きな事柄なので、この場合それに対して批判するというような気持になっていません。ただそれによって私が強い衝撃を受けた、その気持に就いてだけお話ししたいと思います。 森鴎外先生のなくなられ・・・ 宮本百合子 「有島さんの死について」
七月八日、朝刊によって、有島武郎氏が婦人公論の波多野秋子夫人と情死されたことを知った。実に心を打たれ、その夜は殆ど眠れなかった。 翌朝、下六番町の邸に告別式に列し、焼香も終って、じっと白花につつまれた故人の写真を見・・・ 宮本百合子 「有島武郎の死によせて」
出典:青空文庫