・・・雨は落ちて来しなに、空中の有毒瓦斯を溶解して来る。 長屋の背後の二すじの連山には、茅ばかりが、かさ/\と生い茂って、昔の巨大な松の樹は、虫歯のように立ったまゝ点々と朽ちていた。 灰色の空が、その上から低く、陰鬱に蔽いかぶさっていた。・・・ 黒島伝治 「土鼠と落盤」
・・・その後のある日にもまた自分が有毒のものを採って叱られたことを記憶しているが、三十余年前のかの晩春の一日は霞の奥の花のように楽しい面白かった情景として、春ごとの頭に浮んで来る。 幸田露伴 「野道」
・・・彼らは、たいてい栄養の不足や、過度の労働や、汚穢なる住居や、有毒なる空気や、激甚なる寒暑や、さては精神過多等の不自然な原因から誘致した病気のために、その天寿の半ばにも達せずして、紛々として死に失せるのである。ひとり病気のみでない。彼らは、餓・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・己・禁欲・苦行・努力の生活を為す人々でも、病いなくして死ぬのは極めて尠いのである、況んや多数の権力なき人、富なき人、弱き人、愚かなる人をやである、彼等は大抵栄養の不足や、過度の労働や、汚穢なる住居や、有毒なる空気や、激甚なる寒暑や、扨は精神・・・ 幸徳秋水 「死生」
・・・家が大事という封建的な立場に立った感情を婦人の心に強くめざめさすことは食うに食えなくなった家のために話にならぬほどの低賃銀で十三時間も働かせられたり、有毒な仕事にこき使われたりすることをも、忍耐強い日本婦人の美徳として自分自身満足するよう、・・・ 宮本百合子 「今日の文化の諸問題」
・・・清潔な社会主義社会にとって有毒な官僚主義、俗人趣味のバチルスとしてのプリスィプキンは仮死状態で発見されたがそれをどう処理するか。やっぱり全СССРのラジオの決議で活きかえらすことになり、珍動物として厳重な檻の中で試育され、マスクをかけた一九・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
出典:青空文庫