・・・朝に北海に遊び、暮には蒼梧。袖裏の青蛇、胆気粗なり。三たび岳陽に入れども、人識らず。朗吟して、飛過す洞庭湖。 四 二人を乗せた青竹は、間もなく峨眉山へ舞い下りました。 そこは深い谷に臨んだ・・・ 芥川竜之介 「杜子春」
・・・と彼の暗記しおる公報の一つ、常に朗読というより朗吟する一つを始めた、「敵艦見ゆとの警報に接し、連合艦隊は直ちに出動これを撃滅せんとす、本日天候晴朗なれども波高し――ここを願います、僕はこの号外を読むとたまらなくうれしくなるのだから――ぜひこ・・・ 国木田独歩 「号外」
・・・ もう一遍、朗吟して、「この気持だ。――え?」 満州侵略戦争とそのためのひどい収奪のことも、その戦争の命令者である〔二字伏字〕のことも、人民は見ざる、聞かざる、云わざる、奴隷として搾られ、そして死ねというわけである。これは理性あ・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・従って詩吟という一つの朗吟法が持っているメロディーは非常に緊迫した悲愴の味であり、テムポから云えば当然昔の武士が腰に大小を挾み、袴の裾をさばきながら、体を左右に大きく振り頭を擡げてゆっくり歩きながら吟じられるように出来ている。詩吟とはそうい・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
・・・即ち、それぞれの筆者の主観と感情の傾向に支配されて、ある文章は無垢な天の童子の進軍の姿のように、ある文章は漢詩朗吟風な感傷に於て書かれた。そして、そのいずれもが等しく溢れさせているのは異常な環境のために一層まざまざとした筆者の個性の色調であ・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
出典:青空文庫