・・・様子を見ると、例えば木刀にせよ一本差して、印籠の一つも腰にしている人の様子でした。 「どうしような」と思わず小声で言った時、夕風が一ト筋さっと流れて、客は身体の何処かが寒いような気がした。捨ててしまっても勿体ない、取ろうかとすれば水中の・・・ 幸田露伴 「幻談」
・・・ところでこの男がまた真剣白刃取りを奉書の紙一枚で遣付けようという男だったから、これは怪しからん、模本贋物を御渡しになるとは、と真正面からこちらの理屈の木刀を揮って先方の毒悪の真剣と切結ぶような不利なことをする者ではなかった。何でもない顔をし・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・大腿のところに、木刀か竹刀かで、内出血して、筋肉の組織がこわされるまで擲り叩いて重吉を拷問した丁度その幅に肉が凹んでいて、今も決して癒らずのこっているのであった。 四 腰かける高いテーブルで、重吉が書きものをし・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・ 木村の心持には真剣も木刀もないのであるが、あらゆる為事に対する「遊び」の心持が、ノラでない細君にも、人形にせられ、おもちゃにせられる不愉快を感じさせたのであろう。 木村のためには、この遊びの心持は「与えられたる事実」である。木村と・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・体を極めて木刀を揮る。婆あさんは例のまま事の真似をして、その隙には爺いさんの傍に来て団扇であおぐ。もう時候がそろそろ暑くなる頃だからである。婆あさんが暫くあおぐうちに、爺いさんは読みさした本を置いて話をし出す。二人はさも楽しそうに話すのであ・・・ 森鴎外 「じいさんばあさん」
出典:青空文庫