・・・もういいのかと思ったら富田さんがいそいで来て、木村先生が御自分でいらっしゃってからおとりになるんだそうですからと云うことだ。若い写真師は廊下で待ちどおしそうにしている。木村先生がひとりで来られ、写真師もまた入って来た。木村先生は粉はないか、・・・ 宮本百合子 「寒の梅」
・・・一ヵ月半ばかり経った時、作家同盟の木村好子さん、後藤郁子さんが折角面会に来て呉れたのに、留置場の私がそれを知ったのは翌日のしかも夕方でした。出て来てからそのときの話をきくと、まあ何と憎らしいことでしょう! 駒込署の高等係は、余り二人の同志が・・・ 宮本百合子 「逆襲をもって私は戦います」
・・・今日は私も、夜昼とり違えでないから気分もよく、かんしゃくも納っています 御注文の辞典類は木村の『和独大辞典』と白水社の『和仏辞典』とがあったので、書店から直接そちらへ送るように送金致しました。『朝日年鑑』と片山の『ドイツ文法辞典』と・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・二人の娘の気質の相異を理解しながら、読者は次第に北国へ向い、やがて峯子に出会ってA村に入ると、そこには、貧農の息子でのちに急進的に行動する清司、動揺する地方の人道主義的インテリゲンチアである小学教師の木村、窮乏による放火犯の息子であり、A村・・・ 宮本百合子 「作家への課題」
・・・ アンマの木村 六十九歳、 若いうち、いろんな渡世をし、経師や、料理番、養蚕の教師、アンマ、など。 冬、赤いメンネルのしゃつをき、自分でぬいものをもする。「あんたどの位あります」などときく。小柄、白毛。総・・・ 宮本百合子 「一九二五年より一九二七年一月まで」
・・・八月八日に「はじめて面会を許されて弟に会いましたが、そのとき立ち会った木村検事にわたしが、公正な立場でやっていただきたいというと『宮原係の検事としてききずてならない』と酒を飲んだように顔面を紅潮させて、両脇腹に手をあてがって『でっちあげるの・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
木村は官吏である。 ある日いつもの通りに、午前六時に目を醒ました。夏の初めである。もう外は明るくなっているが、女中が遠慮してこの間だけは雨戸を開けずに置く。蚊の外に小さく燃えているランプの光で、独寝の閨が寂しく見えている。 器・・・ 森鴎外 「あそび」
木村は役所の食堂に出た。 雨漏りの痕が怪しげな形を茶褐色に画いている紙張の天井、濃淡のある鼠色に汚れた白壁、廊下から覗かれる処だけ紙を張った硝子窓、性の知れない不潔物が木理に染み込んで、乾いた時は灰色、濡れた時は薄墨色・・・ 森鴎外 「食堂」
・・・おなじ宿に木村篤迚、今新潟始審裁判所の判事勤むる人あり。臼井六郎が事を詳に知れりとて物語す。面白きふし一ツ二ツかきつくべし。当時秋月には少壮者の結べる隊ありて、勤王党と称し、久留米などの応援を頼みて、福岡より洋式の隊来るを、境にて拒み、遂に・・・ 森鴎外 「みちの記」
・・・同君と木村荘八君との共著『大同石仏寺』が出たのは関東震災よりも前である。これでよほどはっきりして来たが、しかしまだ雲岡の全貌を伝えるには足りなかった。その後二十年くらいたって、奈良の飛鳥園が撮影しに行き、『雲岡石窟大観』という写真集を出した・・・ 和辻哲郎 「麦積山塑像の示唆するもの」
出典:青空文庫