・・・ 鳥でもないし、木片でもない。「今時分人でもあんめえし……」 浮藻に波の影が差しているのだろうと思って見ると、そう見えないこともない。 が、しかし…… 何だか気になってたまらない彼は、煙管を持った手を後で組み、継ぎはぎの・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・ 細そい木片ですきまなくせせって、せっかく澄んだのを濁すのが面白うてのう。 とは申せ上手に濁す濁さぬはかき廻し手の器用不器用によるのじゃが……法 どぶのわるさも自らの落ちぬ限りでのう、泥深くてやたらともぐり込むそうでござるから・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
・・・ゴーリキイは薪割りに行った物置で読み、屋根裏で読み、蝋燭をつけて夜中に読むのであったが、婆さんは木片で燃えのこりの寸法を計った。ゴーリキイがうまく木片を見つけてそれを燃やした蝋燭の長さに合わせて切りちぢめて置かないと、翌朝、台処、家じゅうに・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・タブ……タブ……物懶く海水が船腹にぶつかり、波間に蕪、木片、油がギラギラ浮いていた。彼方に、修繕で船体を朱色に塗りたくられた船が皮膚患者のように見えた。鴎がその檣のまわりを飛んだ。起重機の響……。 ダーリヤの、どこまでも続く思い出を突然・・・ 宮本百合子 「街」
出典:青空文庫