・・・Crescendo のうまく出る――なんだか木管楽器のような気がする。 私のながらくの空想は、かくの如くにして消えてしまった。しかしこういうことにはきりがないと見える。この頃、私はまた別なことを空想しはじめている。 それは、猫の爪を・・・ 梶井基次郎 「愛撫」
・・・例えばファゴットの管の上端の楕円形が大きく写ると同時にこの木管楽器のメロディーが忽然として他の音の波の上に抜け出て響いて来るのである。こういうことは作曲者かあるいは指揮者を同伴して演奏会へ行っても容易に得られない無言の解説である。カルメンの・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(5[#「5」はローマ数字、1-13-25])」
・・・秋の部の其角孤屋のデュエットを見ると、なんとなく金属管楽器と木管楽器の対立という感じがある。前者の「秋の空尾の上の杉に離れたり」「息吹きかえす霍乱の針」「顔に物着てうたたねの月」「いさ心跡なき金のつかい道」等にはなんらか晴れやかに明るいホル・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・ オーケストラも聞いたが、楽器の音色というものが少しも現わされない、木管でも金属管でも弦でもみんな一様な蛙の声のようなものになって、騒々しくて聞いていられない。 このほうの玄人に聞いてみると、飲食店や店頭にある拡声器が不完全なために・・・ 寺田寅彦 「路傍の草」
出典:青空文庫