・・・ロマンティックな傾向に立って文学的歩み出しをしていた藤森成吉、秋田雨雀、小川未明等の若い作家たちは、新たに起ったこの文学的潮流に身を投じ、従来の作家の生い立ちとは全くちがった生活の閲歴を持った前田河広一郎、中西伊之助、宮地嘉六等の作家たちと・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・ポーの小説集二冊を母が何かの拍子で買って来てくれたことから、次第に私の本棚にはワイルドだの、小川未明だの、ダヌンツィオだのが加って行った。ワイルド警句集という小型の本も今度出て来た。あけてみると、ところどころに赤鉛筆でマルがつけてある。・・・ 宮本百合子 「本棚」
・・・本間さんのところにいつしかもうそんなに大きい娘さんがたがおられるということ、私の少女時代に暗いロマンチックな作品をよんだことのある小川未明さんが今日では二十三歳になる若い女のかたの父親であられること。それらは、私に明治時代から今日までの社会・・・ 宮本百合子 「短い感想」
・・・○十二月一日 小川未明さんが、その小説の中に「いろいろの連想をもった自分には非常になつかしく思われるものも、他人にとっては、一文の価値さえないものだ」と云う事を書いて居られる。 そういう心持を私は、こちらに来て、幾度も考えさ・・・ 宮本百合子 「無題(二)」
・・・ 次の日には未明に文吉が社へ往った。番号順は文吉より前なのに、まだ来ておらぬ人があったので、文吉は思ったより早く呼び出された。文吉が沙に額を埋めて拝みながら待っていると、これも思ったより早く、神主が出て御託宣を取り次いだ。「初の尋人は春・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
出典:青空文庫