・・・その敬服さ加減を披瀝するために、この朴直な肥後侍は、無理に話頭を一転すると、たちまち内蔵助の忠義に対する、盛な歎賞の辞をならべはじめた。「過日もさる物識りから承りましたが、唐土の何とやら申す侍は、炭を呑んで唖になってまでも、主人の仇をつ・・・ 芥川竜之介 「或日の大石内蔵助」
・・・ 折角来たのに失望も感じたが、爺さんの眼付と言葉は朴直を極め、強いてそれ以上何と云う余地もない。 私共は左に花壇のある石段を登り、日本信徒発見記念のマリヤ像の立っている正面玄関の右手扉を云われた通りに押して見た。開かない。ぐるりと裏・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
・・・社会の歴史から客観すれば、或る個人がどの時代に生きたということは問題になっても主観としては、これ等の知識からまるで放たれ、もっとももっとも朴直な而も純な太古の心を以て、わが宇宙をわが愛で認識し、整理してこそ甲斐があると思います。もっと無邪気・・・ 宮本百合子 「われを省みる」
出典:青空文庫